天然痘の前兆や初期症状について
天然痘の前兆や初期症状は潜伏期から痂皮形成期まで、5段階に分かれています。この章では、天然痘の前兆と初期症状についてわかりやすくご紹介します。
潜伏期
天然痘ウイルスに感染してから発症するまでの期間は7-19日間で、この期間は無症状の潜伏期となります。
ウイルスが感染後に増殖している段階です。
前駆期
潜伏期の後に、突然高熱(38-40度)、悪寒、頭痛、腰痛、嘔吐などの激しい全身症状が現れます。この時期が前駆期です。
高熱は持続し、全身の筋肉痛や倦怠感も強くなります。
発疹期
前駆期に続いて全身に発疹が現れる発疹期です。
発疹は顔面、四肢、体幹の順に出現し、時間の経過とともに進行します。
最初は小さな斑状の紅斑として現れ、徐々に丘疹や水疱へ変化します。
水疱は直径5-10mmほどのサイズで、中心が濃い赤色なのが特徴です。
膿疱期
水疱は徐々に膿疱化します。膿疱は厚い壁に包まれ、内部に膿汁を含むようになります。
この時期は全身の発疹が最も高度な時期です。
痂皮形成期
最終的に、膿疱は乾燥して固い暗褐色の痂皮となります。
この痂皮は徐々に剥がれ落ちていきます。
天然痘の症状は発症初期から特徴的で、突発的な高熱と全身性の発疹の出現が重要な前兆症状です。
この症状の推移は、麻疹やウイルス性発疹症など、ほかの発疹性疾患とは大きく異なるため、早期診断には発症初期からの経過観察が欠かせません。
前駆期の症状出現時には直ちに医療機関を受診し、保健所への連絡が必要です。
隔離措置を講じて、適切な治療介入が、天然痘感染者の予後と感染拡大を防ぐ大切なポイントとなります。
天然痘の検査・診断
天然痘は複数の検査を実施し、症状と検査所見を照らし合わせて総合的に診断されます。
そのために以下の3つを行います。
・臨床症状の確認を行い、高熱や全身性の発疹、水疱・膿疱の経過などを診る
・疫学情報の収集のため、感染者の渡航歴や接触歴を詳しく確認、感染経路を特定します。
特に天然痘の流行地域への渡航歴や、感染者との接触歴の確認は重要です。
・病原体検査で検体からの病原体検出が必要です。
ここから具体的にどのような検査をするのか説明します。
電子顕微鏡検査
感染者の水疱液や痂皮から採取した検体を電子顕微鏡で観察し、ポックスウイルス粒子の有無を確認します。
PCR検査
遺伝子増幅法によりウイルスのDNAを検出します。
水疱液やクルー痂皮などから採取した検体を用います。
ウイルス分離
細胞培養系でウイルスを分離培養し、同定することができます。
ただし、生物学的安全性が高く、特殊な設備が必要です。
抗体検査
血清中のポックスウイルス蛋白抗体を検出することで、過去の天然痘ワクチン接種歴や自然感染の有無を推定することが可能です。
画像検査
発疹の分布や経過を把握するため、皮膚所見の写真撮影などが行われます。
万が一検査結果が陽性となった場合、直ちに公衆衛生当局に報告し、感染者の隔離や接触者の追跡調査など、迅速な対応が必要です。
天然痘の診断
診断は次の基準に沿って行われます。
①主要な症状がある
突発的な高熱と全身性の発疹の出現
発疹の進行過程(水疱化→膿疱化→痂皮化)などの症状がある
天然痘の流行地域への渡航歴や、感染者との濃厚接触歴がある
②検査所見
患者検体の培養やウイルス検査で天然痘ウイルスを同定します。
③除外されるもの
症状が非典型的だったり、検査結果が不明確な場合は、ほかの発疹性疾患の可能性も考慮し、経過観察の必要があります。
天然痘の診断から除外される場合の判断基準は以下になります。
水痘(水疱の分布が体幹優位)
単純ヘルペス(発疹が皮膚・粘膜に限局)
麻疹(発熱と発疹の時間的経過が異なる)
風疹(発疹の広がりが緩徐)
帯状疱疹(播種性でなければ発疹が一側性で神経支配領域に限局)
これら上記①〜③を全て満たした場合となります。
配信: Medical DOC