公益社団法人全国老人保健施設協会、公益社団法人全国老人福祉施設協議会、一般社団法人全国介護事業者連盟など介護事業者9団体が9月20日に発表した「介護現場における物価高騰・賃上げ等の状況調査」によると、2023年度から2024年度の賃上げ率は平均で2.52%となりました。
昨今の物価高などを受けて各業界で賃上げが進んでいますが、それと比べても低く、介護業界の人手不足にますます拍車がかかることが予想されます。
この調査は2024年8月末~9月上旬にかけて実施したもので、全国8761事業所が回答しています。
それによると、正社員全体の2023~2024年度の賃上げ額は6098円、率にして2.52%となりました。そのうち、ベア分は3299円です。2022~2023年度の賃上げ額は4600円(ベア分2114円)でしたので、賃上げ額自体は33%の増加となっています。
サービス種別では、老健・特養・特定施設などの居住施設系サービスが5931円(前年度比33%増)、通所介護・訪問介護・小規模多機能などの在宅系サービスが7373円で(同31%増)です。
次に、事業所の運営コストの増加率を見てみましょう。
老健・特養・介護医療院で2022年度と2024年度を比較すると、電気代は7%増、ガス代は1%減、燃料費は4%減となっています。
また、給食用材料費・給食委託費は5%上昇しています。一方、在宅系サービス事業所では電気代で9%、ガス代で3%、燃料費で15%、給食用材料費・給食委託費で10%上昇しています。
ここ数年、水道光熱費をはじめとする各種物価の上昇が叫ばれていましたが、実際にそれらが大きく上昇したのは2021~2022年度にかけてであり、それ以降は「高止まり」の傾向が続いています。
運営コストの上昇は、介護事業経営者にとっては頭の痛い問題ではありますが、この数年の間に、仕入れ先の変更などでコスト高に対応できるだけの体制を整えてきたことが2022~2023年度に比べて高い賃上げを実施できた要因の一つといえるのではないでしょうか。
しかし、この2.52%の賃上げというのは、他産業と比べても決して高いものではありません。
例えば、連合の調査では2024春の春季生活闘争(春闘)の結果は5.10%の賃上げ率と33年ぶりの高水準となりました。今回の調査による介護事業者の賃上げ率はその半分にもなりません。
また、日本商工会議所・東京商工会議所が2024年6月5日に発表した「中小の賃金改定に関する調査」では「医療・介護・看護業」の賃金改定率は2.19%で、小売業の4.01%や宿泊・飲食業の3.37%、建設業の3.29%など、人材獲得において介護のライバルと言われている業界を下回っています。
このように、厳しい経営環境の中で、介護業界も人材の確保・定着を目的に賃上げの努力はしているものの、他産業のそれには追い付かず、結果として賃金格差が広がってしまっています。
これは他の業種のように、運営コストの増加を価格に転嫁することが難しいという介護事業特有の問題があると言わざるを得ません。
今後は、最低賃金額の引き上げがさらに経営に大きく影響してくることが予想されます。
介護事業者には保険外サービスの実施による新たな収入源の確保に加え、オペレーションの工夫などで、より少ない人員・工程で業務ができる仕組みの確立など、従来のビジネスモデルを大きく変革させていくことが求められると言えそうです。
介護の三ツ星コンシェルジュ
配信: 介護の三ツ星コンシェルジュ
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