私の実家は車でも電車でも片道10時間はかかる距離。1人いる兄は県外に住んでおり、80代の父母は2人で暮らしていました。しかし、父が入院し寝たきり状態に。意思疎通も難しくなってしまい、母は家にひとりとなりました。そしてある朝、いよいよ覚悟していた時を迎えました。遠方に住む父親の葬儀に際して、戸惑った娘の体験談です。
父の訃報、「家族葬」とは聞いたけれど
「息が細くなっています。すぐに来られますか?」
明け方、病院からの電話を受けて母が駆けつけたときには、父は帰らぬ人となっていたそうです。実家の隣の県にいる兄が父の訃報を母から聞き、すぐに私に電話をくれました。「早朝からの電話でわかると思うけれど、父が亡くなったよ」。
同居している義両親のことを義妹に頼み、仕事の都合をつけ、私は夫と2人で急いで実家へ向かいました。車で10時間。道中では、兄から送られてきた葬儀の日程について、遠方で暮らす私の子どもたちや職場に知らせる作業に追われました。
そして夜、実家に着き、思ったよりずっと穏やかな父の死に顔を見て安堵したものの、それはつかの間のことでした。「家族葬」と聞いて静かにゆっくり父を送れるなと思っていたのですが、地区の方や近い親戚には葬儀のお知らせをするということで、すぐに慌ただしくなったのです。
地区については、役員さんが取り計らってくれスムーズに進みました。問題は親戚関係でした。実は、私の実家は父が定年退職した後に帰った父の故郷で、かなりの田舎です。地縁血縁を重んじる風習が昔は色濃かったようですが、兄も私も住んだ経験はなく、親戚についてもあまり詳しくは知らない状態でした。
あてにできる親戚がいない…
父や母の兄弟にはさすがにすぐ連絡がつきましたが、他の親戚については母から聞き取りをして、関係図を作るところから始めました。80歳を超えた母の話は行ったり来たりで、なかなかはかどりません。
「ああ、いとこの〇〇ちゃん? あのおとなしかった□□おばさんところの長男だよ。でも耳がもうだいぶ遠いからねぇ。隣町に住んでいる娘さんに知らせたほうが良いと思う。連絡先? それは知らないねぇ」「△△さんはたしかもう施設に入っているね。あの家は来るとしたら、息子さんかしらね。ええと、今同居しているのだったかな? 別居したのだったかな?」
どうにか聞き出したものの、十数人いる父のいとこたちは高齢で、葬儀のお知らせ自体が難しいところも。どなたかにお知らせすれば次々と知らせてくれるといった頼れる親戚も見当たらず、一軒一軒こちらから連絡を取るしかありませんでした。普段かかることのない電話番号の呼び出しにはなかなか応えてもらえないのが昨今。兄や私の携帯からかけても応じてもらえる確率は低く、実家の固定電話からかけたらどうにかつながるといった事例も多くありました。父の世代と私たちの世代では、親戚付き合いの頻度も連絡方法の常識も変わっていると実感しました。
配信: 介護カレンダー