■長湯は身体に良いと思っている日本人
日本は、温泉が全国にあります。ほとんどの日本人は、「疲れをいやすのに温泉が一番」と思っているのではないでしょうか。私もその一人です。
温泉に入りながら、景色を楽しむ。汗をたくさん出した後、風呂上がりのビール(冷たい飲み物)は格別です。誰もがしている日常生活ですが、温泉に入り過ぎて体調を崩している人も少なくありません。
患者様の話を聞いていると、一様に感じることは、長くお風呂に入ることが身体に良いと思っている点です。長ければ長い程、身体の調子が良くなると思っています。規則正しい生活をして睡眠時間を十分確保しているにもかかわらず体調不良を訴える人は、入浴方法に問題があるのではないかと考えています。40年以上初診時に入浴の習慣について細かく問診していますが、話を聞いていると共通点があることに気付きます。一つは、毎日30分以上入浴している人は、腎臓の機能が低下してくる症状を呈するという事です。もう一つは、その生活をしている期間との相関関係です。その視点に立って問診していると、以下に示す期間くらい同じ生活を続けると、不調を感じるようになることが分かります。
(1)毎日30分入浴する人は23年位
(2)毎日45分入浴する人は17年位
(3)毎日60分入浴する人は13年位
(4)毎日90分入浴する人は7年位
(5)毎日120分以上入浴する人は3年位
体力がある人とそうでない人に多少の違いはありますが、基本的に体力がない人は長風呂しませんので、概ね大きな誤差はないと思います。中学や高校生の頃から長湯をしている人は少なくありませんが、多くの場合社会人になってからのようです。長湯の理由は様々ですが、ストレス解消のためという話を良く耳にします。大学を卒業した23歳頃から長湯になったと仮定した場合、45歳くらいから不調を感じ始めるという計算です。
最初に感じる代表的な症状は、身体にだるさを感じる、疲れやすくなることです。お風呂に入るとすっきりするので、徐々に入浴時間が長くなるようです。症状が進むと、首の後ろが重だるくなる、耳の聞こえが悪くなる、耳鳴りが時折する等を自覚するようになります。女性の場合は、膀胱炎をたびたび発症するようになるケースもあります。食事をしても、すぐ満腹感を感じるようになり、食事の量が減ります。関節に力が入らなくなり、膝関節の靭帯断裂、骨折や捻挫を起こし易くなります。このコラムを見て、心当たりがある人は、直ちに入浴時間を3分以内にして、体力の回復に努めることを勧めます。
入浴中や入浴後の運動は、捻挫を起こし易くなります。詳しくは、JIJICO内にある下記コラムをご参照願います。
入浴後や入浴中の柔軟体操は危険?!体力向上や柔軟性を高める運動はいつ行えば効果的か?
■熱いお風呂は身体に良い!?
日本人は、お風呂に入って汗を出すことは身体に良いと思っている人が多いように感じます。そのため、だんだん熱いお風呂に入る傾向があります。草津温泉は、2024年の外国人人気ランク1位ですが、とてもお湯が熱いことで有名です。50℃から90℃あるので、伝統芸となっている湯もみをしてお湯を冷まします。かなり水を加えなければ入れない印象ですが、慣れると44℃から46℃くらいの熱さでも入っていられるようです。
私は、お風呂場で倒れ込み動けなくなったというので往診に行ったことが2度あります。1人は、44℃のお風呂に2時間入浴していました。もう1人は、46℃のお風呂に1時間です。いわゆる湯あたりですが、このくらいの温度と入浴時間が、体力がある人でも限界なのかなと思いました。
ヒトには温熱を伝えるポリモーダル受容器があります。44℃~45℃になると温熱刺激を伝えますので、このくらいの温度で常日頃入浴していると、温熱刺激の伝達に狂いを生じて熱いと感じにくくなるのではないかと思います。43℃なら良いとは思いませんが、一般的な湯船の温度を保持する機械の温度設定が42℃になっていることから見ても、そのあたりが妥当なのだと思います。お湯を張ると、大気によってお湯の温度が下がるため、少し時間が経つと40℃~41℃くらいになっているからでしょう。
配信: JIJICO