毎年冬になると、空気の乾燥や湿度の低下などの理由から風邪が流行りやすくなります。こうした風邪を予防するために「ビタミンC」のサプリメントやドリンクを摂取する人も少なくないと思います。しかし、「ビタミンCを摂取しても、風邪は予防できない」と示された論文があることをご存知ですか? 今回は、久高医師に論文で示された内容を解説していただきました。
監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。
ビタミンCの風邪予防効果について言及された論文とは?
ビタミンCの風邪予防効果について言及された論文では、実際にどのような評価が示されたのでしょうか?
久高先生
風邪は、最も蔓延している「ウイルス性上気道感染症」の1つで、咳、疲労感、発熱、喉の痛み、筋肉痛などの症状が数日から3週間以内にわたって持続するとされています。そもそも、風邪という用語は、複数のウイルスによって引き起こされる非特異的症候群を指しますが、最も頻繁に病原体となるのは「ライノウイルス」で、患者の30~50%に感染が認められます。
「ビタミンCを大量に摂取すると、風邪にかかりにくくなる」という俗説は、1970年代にライナス・ポーリングという科学者が発表した理論に由来しています。ポーリングは1954年にノーベル化学賞を受賞している人物です。当時、ポーリングが発表した論文では「ビタミンCを1日1000mg摂取することで、風邪の発生率を約45%減らすことができる。病気を予防して健康的に生活するためには、1日に少なくともビタミンCを2~3g摂取するのが適切」と示していました。その結果、アメリカでビタミンCサプリメントの売り上げは数年でほぼ倍増する影響を及ぼしました。しかし、同様の目的でおこなわれたほかの臨床研究では、その有効性を証明することはできず、それどころか非ランダム化比較試験や動物実験のヒトへの誤った適用に基づいて、ポーリングの考えを完全に否定する査読済みの論文も出てきています。
2020年10月に学術誌「Frontiers in Immunology」に掲載された論文では、こうした背景から「ビタミンCの大量摂取は、風邪の予防には無意味である」と結論づけ、「日常的なサプリメントの摂取は正当化されない」とも言及しています。
ビタミンCとは?
今回紹介した研究テーマにもなったビタミンCについて教えてください。
久高先生
ビタミンCは、アスコルビン酸とも呼ばれる水溶性の栄養素で、ビタミンCには酸化防止作用があり、体内でフリーラジカルによるダメージから細胞を守るのを助ける働きがあります。フリーラジカルとは、食べ物が体内でエネルギーに変わる時に形成される化合物で、大気中にもタバコの煙や大気汚染、太陽からの紫外線によって発生したフリーラジカルが存在し、人々は曝露を受けています。また、傷の治癒に必要なタンパク質である「コラーゲン」を生成するためにも、ビタミンCは必要です。さらに、ビタミンCは、植物性食品からの鉄の吸収を促す働きもあります。
ビタミンCは、柑橘類やピーマン、キウイフルーツに豊富に含まれています。あとは、ブロッコリー、イチゴ、トマトなどにも含有されています。
配信: Medical DOC