東京科学大学の研究グループは、乳幼児を中心に発症して全身の血管に炎症が起きる「川崎病」について、暑さで発症リスクが上昇するとの研究結果を発表しました。この内容について山田医師に伺いました。
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監修医師:
山田 克彦(佐世保中央病院)
大分医科大学(現・大分大学)医学部卒業。現在は「佐世保中央病院」勤務。専門は小児科一般、小児循環器、小児肥満、小児内分泌、動機づけ面接。日本小児科学会専門医・指導医、日本循環器学会専門医。
研究グループが発表した内容とは?
東京科学大学の研究グループが発表した内容を教えてください。
山田先生
今回紹介する研究報告は東京科学大学の研究グループによるもので、研究成果は学術誌「Environmental Research」に掲載されています。
研究グループは、日本全国の2011〜2022年までの12年間において、年間で最も気温の高い5〜9月の5カ月間の川崎病による入院データ約4.8万件を対象に、高い気温に曝露することと川崎病の関連性を検討しました。入院データはDPC(Diagnosis Procedure Combination)のデータベースから抽出し、気温については気象庁のデータを使用したとのことです。
解析の結果、子どもが暑さに晒されることで、川崎病の発症リスクは増加することが明らかになりました。特に、1日の平均気温が30.7度という極端な暑さだと、最もリスクが低い気温である11.3度と比べて、入院リスクは33%増加するという結果が示されました。
研究グループは、今回得られた結果について「今後、気候変動の影響で暑すぎる日が増えると予想される中で、医療従事者は気温の高い日に川崎病患者数が増える可能性を踏まえ、対応準備を進めることの重要性が示唆されました。また、熱中症警戒アラートに基づき、高温環境を避けることは、子どもの川崎病発症リスクの軽減に寄与するためにも有効である可能性があります」と、社会的な意義についてコメントしています。また、今後の展開については「約50年間にわたる研究がおこなわれているものの、川崎病の原因はまだ完全には解明されていません。環境要因と川崎病の関連性を理解することは、未解明の川崎病の原因を明らかにするための一助となることが期待されます。今後は気温と川崎病の関係を説明するメカニズムとして、気道上皮細胞からの炎症性メディエーターの放出などの検討が求められます」と述べています。
川崎病とは?
今回紹介した研究テーマにもなった川崎病について教えてください。
山田先生
川崎病は、1967年に小児科の川崎富作氏が最初に報告した病気です。4歳以下の乳幼児に多く発症し、全身の血管に炎症がおきることで様々な症状が出てきます。「高熱」「眼球結膜充血」「口唇の紅潮やいちご舌」「体の発疹・赤み」「手足の腫れ」「首のリンパ節の腫れ」の6つの症状のうち、5つ以上の症状があれば川崎病と診断されます。また、小さなお子さんではBCGを注射した場所が紅く腫れ上がることも、特徴的な症状の1つです。
川崎病の原因は未だに特定されていません。川崎病にかかった子どもの約3%に、瘤(こぶ)が血管にできることが知られています。もし、心臓に酸素と栄養を運ぶ役目を持つ冠動脈に瘤ができると、回復期に血栓ができて突然死したり、将来的に冠動脈が狭くなって狭心症や心筋梗塞を起こしたりする可能性もあります。ある程度の冠動脈障害を残してしまった場合は、心筋梗塞を予防するために、一生血液が固まりにくい薬を飲み続ける必要があります。
配信: Medical DOC