監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
筑波大学医学群医学類卒業 。その後、北海道内の病院に勤務。 2021年、北海道札幌市に「宮の沢スマイルレディースクリニック」を開院。 日本産科婦人科学会専門医。日本内視鏡外科学会、日本産科婦人科内視鏡学会の各会員。
臍帯巻絡の概要
臍帯巻絡(さいたいけんらく)とは、妊娠中の女性の体内において胎児の体や首に臍帯(へその緒)が巻きついてしまう現象です。
臍帯は、胎児と母体をつないでいる、ホースのように細長い器官です。胎児の成長に欠かせない酸素や栄養を供給する重要な役割を担い、その長さは約50cm、直径は2cmほどです。
臍帯は引っ張り、ねじれなどに強い構造をしていて、羊水中を胎児とともに浮遊しています。胎児が子宮内で動くようになると、浮遊している臍帯が胎児の体や首に巻きつくことがあります。
ほとんどの場合、臍帯巻絡が生じていても胎児や分娩への影響はそれほど大きくないと考えらています。たとえば、臍帯が巻きついていない場合と1周だけ巻きついている場合では、分娩のリスクや胎児への影響はほとんど差がないことが知られています。ただし、巻きつきが強かったり、何重にも巻いていたりする場合は、分娩時間が長くなる傾向があり、胎児異常のリスクに影響を与える可能性があります。
臍帯巻絡は、全分娩の約3割で確認されており、決してめずらしいものではありません。部位別に見ると、胎児の首部分に生じるケースが大半を占めています。また、胴体や手足への臍帯巻絡を正確に診断するのは技術的に難しいという側面もあるため、妊婦健診における超音波検査では、首の巻きつきの有無のみを確認するのが一般的です。
臍帯巻絡に対する直接的な治療法や予防方法はありません。重度の臍帯巻絡が確認された場合は、帝王切開などが検討されます。
臍帯巻絡の原因
臍帯巻絡は、主に臍帯の長さや胎児の活動が原因で起こると考えられています。胎児が子宮内で活発に動くようになり、羊水の中で自由に手足を動かしたり回転したりするようになると、偶発的に臍帯が胎児の体に巻きつくことがあります。同じく偶発的に巻きつきがもとに戻ることもあれば、巻きつきがそのままになってしまうこともあります。
なお、臍帯の長さは一般的には50cmほどですが、個人差が大きく、臍帯が長い人(過長臍帯)もいます。
なお産科婦人科用語解説集(日本産科婦人科学会編)では、臍帯の長さが70cm以上で過長臍帯と定義されています。
さらに、多胎妊娠(双子や三つ子など)で臍帯巻絡のリスクが高まるケースがあります。胎児同士がそれぞれ異なる羊膜を持ち、隔てられた空間で育つ場合は、臍帯巻絡のリスクは上がりません。一方で、ひとつの羊膜を共有し同じ空間で育つ(一絨毛膜一羊膜双胎)の場合は、相互に臍帯が絡み合う「相互巻絡(そうごけんらく)」のリスクが高まります。
しかし、一絨毛膜一羊膜双胎(MM)は、絨毛膜二羊膜双胎(DD)・一絨毛膜二羊膜双胎(MD)と比べると、双胎のなかでは最もまれなケースです。
配信: Medical DOC