■お尻のポケットに物を入れて歩くと腰痛になる?
ヒトは、左脳が支配する右手側が利き手になると考えられています。右手に物を持って歩くと、右半身の筋緊張が強くなります。重い物を持つと体が右へ傾き、腰の筋肉(腰方形筋・腹斜筋)の緊張が強くなるので腰痛を引き起こしやすくなります。
腰痛で来院される人の中には、財布にカードなどの物を沢山詰めて、お尻のポケットに入れる男性が多いように思います。右利きの人は右のお尻に入れます。この生活スタイルは、腰痛を引き起こしやすいと言えます。右のお尻の筋肉(殿筋)の疲労が強くなり、反対側の筋肉との左右差が大きくなりますので、歩行に支障を生じます。特に、大中小ある殿筋の中で、中殿筋の筋力が低下すると体が傾くような歩き方になります。
一般的な正常歩行は、骨盤が水平に保たれることで、まっすぐ歩くことができます。自分がまっすぐ歩いているかどうかを、自分で判断するのは難しいと思います。自己判断する方法は、いくつかあります。
1.道路を歩いているとき白線の上をしばらく歩いてみる
歩く際は、足元の白線を見ないで、少し遠くまで続く白線を見ながら背筋を伸ばして歩きます。まっすぐ歩けなかったら、重心が傾いていると考えて良いでしょう。
2.ショウウインドウに映る自分の歩いている姿勢をチェックする
背筋が伸びているかを確認することができます。
3.窓に映った自分を見ながら足踏みする
自分の姿を見ながら背筋を伸ばし、膝を開かないようにして、坐布団くらいの四角い枠の中で、1分ほどその場足踏みします。枠の中から離れて行くようなら、筋肉が左右対称ではありません。
40歳代50歳代の人に、トレンデレンブルグ歩行(筋力が弱い方の下肢側で立った時に 骨盤の水平位を保つことができず反対側下肢の骨盤が落下する現象)の兆候が表れ始めたら、筋力低下を示すサインです。低下している筋肉の強化が必要になります。(股関節外転動作時における中殿筋の筋活動の左右差 『理学療法科学』 31(2): 285–288,2016参照)中殿筋は、チンパンジーのように足を少し外へ広げる働きをします。同時に、骨盤を水平に保つ働きを担っています。
まっすぐ歩くためには、お腹にある3つの腹筋(大腰筋・小腰筋と腸骨筋)と大腿部にある4つの内転筋(長・短・大内転筋と薄筋)の力も必要です。腹筋や股関節周囲の筋肉が協調しなければ、まっすぐ歩くことが困難です。トレンデレンブルグ歩行の解消には、上記筋肉の強化が必要です。
中殿筋等の筋力低下を防止するためには、右利きの人がまっすぐ歩くとき、左足やお腹の左側に力を入れて(意識して)、太ももの内側に力を入れましょう(意識しましょう)。毎日歩くことを注意するだけで、筋力低下対策になります。
■筋肉の左右差を解消する方法はある?
利き手が右の人は、右足が利き足となる傾向があります。左右の筋力に差が現れると、痛み等を引き起こします。上半身の筋力(僧帽筋・広背筋)に差が現れると、肩こりや頭痛になります。腰部や股関節の筋力(腰方形筋・中殿筋)に差が現れると、腰痛や膝痛が生じます。
左右の筋力を均等にするポイントは、利き手や利き足ではない方から動作を開始することです。
右が利き手の人が上半身を強化するためには
1.洋服は左から着脱を始める
2.左手で歯磨きをする
3.左手で字や絵を書く
4.左手で箸やスプーンを使う
5.お風呂でかかり湯をするとき左手で行う
右が利き足の人が下半身を強化するためには
6.ズボンは左から着脱を始める
7.ズボンは立ったままで左から着脱を始める
8.靴下は立ったままで左から着脱を始める
9.自転車を漕ぎ出す時左足から始める
などなど、つまり右から行っている動作を極力左から行うようにする、または右で行っていることを左で行うことが、大きな対策と言えます。特に、片足で立つとき中殿筋が大きな役割を担っていますので、片足で立つとぐらつくという人には有効な対策です。
身近で毎日行っていることを、出来そうなことから始めてみることです。何か月、何年もかかると思いますが、少しずつ出来るようになります。うまく出来るようになったら、かなり左右差が解消されていると思います。
上半身が強化されれば、肩こりや頭痛、下半身が強化されれば腰痛や膝痛が解消されているはずです。継続して行える人は、精神状態が穏やかになり、何事にも前向きになっている印象です。左側は右脳が支配していますので、脳内のバランスも良くなり、精神活動にも有効ではないかと考えています。
60歳代後半になると、下半身の筋力が衰えて片足で立てない(男性 65-69歳1.25 % 女性 65-69歳2.76 %)という人が出てきます。
70歳代になると、上半身の筋力が衰えて指先に力がうまく入らなくなります。80歳代になると、いろいろなことが面倒になり、左右差を気にして生活することは難しくなる年代です。上記対策は、40歳代50歳代の人にうってつけではないかと思います。
70歳代、80歳代、90歳代をイメージしたい人は、JIJICO内の下記コラムをご参照戴きたく思います。
70歳代に関するコラム「78歳は体力低下の転換期!?70歳を過ぎたら日常生活動作と深呼吸を大切に」
80歳代に関するコラム「自立した生活が困難になるのは85歳!? 80歳になったら手を振って歩き 良く噛む事をこころがけましょう」
90歳代に関するコラム「110歳まで生きるためには何が必要!? 90歳代になったら必要なことは筋トレ?」
配信: JIJICO