●幼い頃のまばたきが高校生で再び・・・
森田桜ちゃん(仮名)は、幼い頃から花粉症のアレルギーを持ち、春になると結膜炎と鼻炎に悩まされていた。幼稚園の年長組に上がると運動会の練習が始まった。花粉症も治まる時期なのに桜ちゃんは、目をパチパチさせる仕草を見せるようになった。眼科医の診察でも原因が分らない。
運動会が終わると、まばたきの回数は減ったが、その後も園や学校で人前に出るとぶり返す。両親は心配したが、桜ちゃん自身はあまり気にしておらず、小学校高学年になると自然に治まった。
桜ちゃんの主治医がこう説明する。
「彼女は、穏やかな性格で友人も多いと聞いています。必要な場面では自己主張もでき、成績は中から上位。家庭の雰囲気も良く、改善が必要な環境要因は見つかりませんでした」
高校受験を控えた中学3年生のとき、まばたきの症状が一時的に出たが、すぐに治まったという。いまや、ひとクラスに2~3人の割合で発症すると言われるだけに、他人事ではない。それでは、自分の子どもがチックの症状を示したとき、家族はどう対処したらよいのか。
「軽症の場合、医療機関を受診しなくとも、自然に治まる子もいます。かかりつけ医に相談した上で、症状が強い場合や2ヵ月以上続くようならば専門医を受診してください。ただし、『早く治療しなれば手遅れになる』ということはありません。焦らなくとも大丈夫です」(新井医師 以下同)
頻繁に症状が出るなど慢性化した場合は、専門医への定期的なカウンセリングや状況に応じて薬物治療を行う。
●まずは家族ガイダンスと症状を把握することから
軽~重症を通じた治療の基本は、チックの特徴を本人と家族が理解するための「家族ガイダンス」を医療機関で受けることだ。 まずは、チックの傾向を把握しよう。
1.チックは、一時的に症状をとめたり、コントロールすることができる
ただし、コントロールが可能なのは、あくまで一時的。「いまとめられたのだから、我慢できるでしょ」という家族の声かけは控えること。なぜならば、良かれと思っての家族の声かけが、次の2~4のような特徴を促すことがあるからだ。
2.やめようとすればするほど症状が強くなる傾向がある
3.「してはいけない」ことが症状として出やすい
4.周囲がチックの症状を指摘すればするほど、本人の症状が強くなる
家族がほどよい距離感をつかむことが大事になる。ただし、「本人の前ではチックの話に触れないように」、とタブー視するのは禁物だと、新井医師は言う。
「不安を感じた母親や父親が、チック症状のみならず子ども自身からも目を逸らすケースも少なくない。決して子どもを孤立させないでください。適度に時間をおいて、『最近症状はどう?』などと声をかけ、親子でチックについて話す時間をつくるのもよいでしょう」
治療やコントロールが順調に進まない場合、子どもが落ち込む場合や自暴自棄になることもある。ポイントは、「あなたのことを大事に想い、見守っているのよ」というメッセージを伝えることだ。
5.チックには、「(その症状を)やらないとすっきりしない」という特徴がある。
新井医師によれば、一時的に、症状を止めることは出来る。しかし、我慢するという行為は、ムズムズして、本人にとっては心地の悪い状況なのだと話す。
「そうした特徴を理解してあげてください。自宅で症状が出たならば、『悪化した』と決めつけずに、『家で思いっきり発散したんだな』と受けとめてあげてください」
個々の症状を把握して、改善につなげる方法もある。例えば、学校や外出時など自宅外で出るのか、リラックスできる自宅で症状が出るのか、リズムを把握する。それにより、本人と家族の気持ちに余裕が生まれ、症状が軽減することもあるという。他にも、肩や腕が動くような症状ならば、動作が出た瞬間に、肩を回してしまう、といったアドバイスをすることもある。自然な動作につなげることで、症状を目立ちにくくすることも可能なのだ。最後に、新井医師がこう話す。
「生活に支障をきたしたり、痛みを伴うほどでなければ、症状に一喜一憂しないことですね。ご家族もご本人も『チック症状は、ある程度は増えたり減ったりするもの』と考えてつきあっていく。そんな姿勢があってもいいでしょう」
チックは、発症した本人もつらい。同時に、家族のケア同じくらい大切だ。専門の医療機関では、本人だけでなく家族のカウンセリングも行っているので、相談してみてほしい。
(取材・文/永井貴子)