写真説明:「旧北野邸」の傷んだ箇所を撤去する大学生たち(半田洋久さん提供)
2024年元日の能登半島地震で壊れた輪島市門前地区の建物を改修して、都市部などから訪れる人たちに地域の暮らしを伝える拠点にする活動に、関東の大学生たちが取り組んでいます。資金が乏しい中、解体される住宅の廃材を使うなどして、息の長い取り組みをする学生たちに、地域住民もエールを送っています。
舞台は伝統的な街並みの中の商店建築「旧北野邸」
改修が行われているのは、輪島市黒島町の木造二階建て店舗兼工場兼住宅、通称「旧北野邸」です。正面がガラス張りで、伝統的な街並みの中では目立つ建物でした。牛乳の配達もしていた雑貨屋で、縫製工場と住まいも併設し、200㎡を優に超える広さがあります。県内の別の地域に住む持ち主が管理していたものの、10年以上空き家になっていました。
黒島町は、江戸から明治にかけて活躍した北前船の船主や船員が住んでいた集落です。重厚な黒瓦や格子戸などが特徴の古い木造家屋が並ぶ美しい街並みが、「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されています。
1月の地震で黒島町は震度7の揺れに見舞われ、重要文化財の「旧角海家住宅」の母屋が倒壊するなど、大きな被害を受けました。
写真説明:1階にできる水たまりの状況を床にチョークで書き、水を排出するための溝をどう引くか考える (半田さん提供)
雨漏りで天井板が傷み、1階床に水たまりが広がる
旧北野邸も、屋根などが大破し、修理ができないまま約1年が経過した結果、2階と1階の天井板が部分的に腐って、雨が降ると1階の床にカビ臭い水たまりが広がる状態になっていました。
写真説明:「旧北野邸」の改修について説明する半田さん
建築を学ぶ芝浦工大4年生が「卒業設計」で改修にチャレンジ
旧北野邸の改修に、中心メンバーとして取り組んでいるのは、芝浦工業大学建築学部4年生の半田洋久さん(22)です。
イベントで黒島の地域起こしに取り組む元石川県庁職員の杉野智行さん(37)と知り合い、杉野さんが運営する宿泊施設「ゲストハウス黒島」の手伝いをしていた半田さん。
「海と山の恵みに感謝しながら暮らすこの地域と人々に触れて、すっかりファンになり、ここを、自分の『帰る場所』にできたら、と思いました」と語ります。
杉野さんが「旧北野邸」を持ち主から譲り受け、「能登の里山里海の暮らし」を未来につなぐための施設にすると聞いた半田さんは、建築学部の卒業論文に当たる「卒業設計」のテーマとして旧北野邸の改修をやりたいと杉野さんに申し出て、了解を得ます。そして2024年11月から、改修プロジェクトがスタートしました。
大学生10人以上が手伝いに
プロジェクトには、もともと半田さんの卒業設計を手伝う予定だった“助っ人”のほか、活動に興味を持った友人や後輩などが加わりました。
芝浦工大や、イベントで知り合った千葉工大の大学生など総勢10人以上が、車に乗り合わせたりして交代で黒島に入り、「ゲストハウス黒島」で寝泊まりしながら作業をしています。改修に参加する大学生にアルバイト代は出ませんが、宿泊費は杉野さんが負担しています。
ゲストハウスの近くに住む会社員の升潟孝之さん(55)は、大学生たちの活動を知り、時折ゲストハウスを訪れては、地元の食材を使った料理を学生に振る舞っています。
升潟さんは、「若者が来てくれると地域が活気づく。本当にありがたい」と話します。
写真説明:改修には、廃材や、海岸で拾ってきた流木なども活用している
配信: 防災ニッポン