●長期貯蓄が難しいのは人間が持って生まれた性質だから?
老後資金への漠然とした不安を抱えてしまうのは明確なビジョンがなく、衝動的にお金を使ってしまう人によく見られる傾向とのこと。貯めないと将来苦労することは目に見えているのにも関わらず、つい無駄遣いをしてしまう心理について、安田さんは次のように話します。
「人間は、遠い将来なら待てるけれど、近い将来のことは待てない行動経済学上の概念『双曲割引』という、非合理的な行動を取ってしまうことがあるんです。たとえば、『1年後に10キロダイエットするという願望がありながら、目の前のケーキの誘惑に負けてしまう』という例がわかりやすいと思います。また、たばこの害を知っていながら、『この1本だけ』と、将来に対するリスクを軽く見てしまう。つまり、リスクを割り引いて、無意識に低く見てしまうという不合理的な行動をとってしまうのが、人間なんです」(安田さん、以下同)
お金が貯められないのは意思の弱さが原因だとも言われますが、長期のゴール設定を目指すことが難しいことは誰しも同じようです。
「特に女性は『老後を考えると、何となく不安になってしまう』という相談が多いです。そのなかでも目立つのは、『みじめな老後は送りたくない』という声。その人が考えている“みじめ”という概念はいったい何なのかを一緒になって探していくわけですが、おそらく本人もそこが分かっていない。言葉が先行してしまっている状況があります。相談の現場では、『みじめではない老後って、どういう老後なのか』を具体的にイメージしてもらって、具体的に捉えてもらうようにしています」
●老後の貯蓄に必要なのは「心満たされるモノ・コト」に気づくこと
どんな老後にしたいかについて思考を巡らせるにあたり、ポイントになるのは「自分が何に心満たされるか」を考えること。
「専業主婦はとくに『老後にやりたいことなんて分からない』と仰る方が多いです。とはいえ目下、家事と子育てに一生懸命な人に、老後のことを聞いてもイメージなんて湧かないですよね。そこで、まずはどういうことなら心が満たされるのかを探してほしいです。
今まで探そうとしていなかっただけで、意識をしていると、潜在意識がキャッチしてくれるようになります。そうすると、『今まで気がつかなかったけど、私はこんな暮らしを求めていたんだ』と気づくはずです」
心満たされる要素を探していると、日常の風景やテレビにうつるふとした光景、雑誌の写真など、ふとした瞬間に憧れを抱いたり、羨ましさを感じたりするようになるとか。
「これまでの相談者にも、資産が1億円もあるのに『これで足りるかしら』と老後に不安を抱いている方もいらっしゃいました。それは、どういう風に暮らすのか具体的な望みがないからに他なりません。不安に思うということは、自分の望みが掴みきれてない証拠なんですよね。かたや、たとえば『自分は、贅沢なものはいらないから、ゴルフさえできればいい』と決めている人はゴルフを続けるためには、若々しくて健康な体を維持することが必要になります。そのためには、お金のかからないウォーキングをしたりする人もいます。またゴルフをやるための健康づくりにアンチエイジング科でサプリを買う人もいます。具体的にやりたいことがあれば、必要な金の対策をしやすいわけです。将来、平日ゴルフを楽しむためには、現役中の今は、お弁当を持参して節約しようと。お金をかけるところ、かけないところをはっきりさせることができるんです」
不安に感じてしまうのは、自らの老後の“あるべき姿”がぼんやりしているから。金額の大小ばかりが必ずしも原因ではないようです。まずは自分自身に問いかけ、内に眠る欲求を探ってみてはいかがでしょうか?
(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)