●24時間“ただ一緒にいる”より、濃密な5分を過ごす
てぃ先生によれば、子どもとのコミュニケーションで重要なのは、時間よりも深さ。限られた時間でも、密に触れ合うことだといいます。
「保育園でも、たとえば1クラスに子どもが20人いたとして、1日の中で全員と長く接するのって難しいんですよ。それこそ、連絡帳に子どもたちの様子を書く際に『この子、今日何してたかな』と、記憶が曖昧になってしまうことがあるんです。僕はそれが嫌なので、必ず全員と1日5分以上は1対1で深く関わるようにしています。ご家庭で言えば、お子さんと一緒にいる時間が長かったとしても、料理作ったり、片づけしたり、洗濯したりと、子どもだけに費やしている時間ってじつは短くなりがちなのです」(てぃ先生、以下同)
家事に仕事にと忙しいワーキングマザーの場合、子どもと一緒にいる時間が長い専業主婦のママをつい羨ましく思ってしまうもの。しかし、“一緒の空間にいるだけ”ではもったいないと、てぃ先生。
「たとえば仕事が終わって帰宅するのが19時、寝るのが22時だとします。その3時間のうち、たった10分だけでもいいので、その子だけに向き合うことが、子どもにとって大切なんだと思います。そういう時間を持てないと、ただ同じ空間にいるだけで『一緒に過ごしている』とはいえないんじゃないでしょうか。親と濃密な時間を共有している意識が持てれば、子どもは精神的に満たされると思います」
●保育園での問題行動は“家での孤独感”が原因?
子どもだけに向き合う時間の過ごし方は、「子どもがやりたい遊びがあればやってもいいし、なければ手をつなぎながら今日あった事をお話するなどでもいいと思います」とのこと。そうした親子の時間があるかどうかで、子どもの情緒にも差が出ると、てぃ先生は感じているそうです。
「僕の感覚ですが、親との濃密な時間をしっかりと持っている子どもは怒りにくい傾向にあると思います。万が一、保育園でお友達関係の中でトラブルがあったとしても、すぐに怒らない。それは、家庭にちゃんと守ってくれる人がいるとわかっているから、気持ちが安定しているのだと思います。
その安定感がない子たちによく見られるのが、他の子を叩いたり、おもちゃを投げたり、あるいは高い所に登って先生の興味を惹こうとすること。お家でなかなか相手にしてもらえないから、行き場がないのかもしれません。自分を絶対に守ってくれるという存在を見失いかけて不安なのかな」
もし、子どもが度々問題行動を起こす場合は、ご家庭での過ごし方を見直してみると良いかもしれません。
ちなみに、てぃ先生は、家庭で寂しい思いをしている子でも、保育園側の取り組み次第で、子どもの気持ちを安定させられると考えているようです。
「保育園で逃げ場を作ってあげることも大事だと思っています。保育士って基本的には複数担任制なので、たとえば3人は今まで通り注意をしたり怒ったりしたとしても、たった一人でもいいから、“子どもの絶対的な味方”になる保育士を作った方がいいと思います。たとえば、おもちゃを投げた子がいても、その先生だけは怒らないで、『何か嫌な事があったのかな?』と聞いてあげる。そうすると、その子は『この人だけは僕の事を怒らない』『ちゃんと気にしてくれる存在がいる』と肌で感じ取ります。それが安心感につながって、先生がちゃんと見てくれるから余計な行動をしなくなるんです」
保育に情熱を注ぐてぃ先生の考え方は、ママたちも共感する部分が多いのではないでしょうか? どんなに小さな子でも、自分としっかり向き合ってくれる大人がいるかどうかで、心の持ちようが変わってくるようです。それを踏まえて、日々の子どもとの関わり合いを見つめなおしてみてはいかがでしょうか。
(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)