●感情のコントロールと密接な「頭の回転の速さ」
「頭の回転の速さ」は、勉強や仕事だけでなく、人間関係の構築にも大きく関わってくると成田さんは指摘します。
「一番差がつくのは、社会に出たときだと思います。前頭葉には沸き上がる欲求を抑える『抑制機能』があります。楽しくないと思っても我慢して宿題をするといった行為も、抑制機能が育ってこそ。ただ、その前提として瞬時に判断するための処理速度、いわゆる『頭の回転』も大事になるのです」(成田先生、以下同)
人間である以上、喜びや嫌悪、恐れなどさまざまな情動とは無縁ではいられません。しかし、社会に出たらこうした感情や欲求のコントロールができないと、対人関係が崩れてしまうと言います。
「相手の気持ちや性格を考えて、振る舞い方や話す内容を瞬時に判断するといった一連の“脳内処理”は、まさに頭の回転とダイレクトにつながってくることです。さらに言えば、その場に応じた『気の利いたひと言』を発することができる人は、相手からの印象も良くなりますが、これは言葉のストックや会話の経験値、つまり脳内にどれだけ『知識・経験・記憶』が蓄えられているかに影響されます。それを上手に素早く引っ張り出せるかも、頭の回転の速さにつながるのです。こうしたことから、頭の回転スピードによって、社会に出てからの成功が決まってくると言っても過言ではないと思います」
●社会で使える脳を完成させるための基礎は「生活リズム」
逆に、抑制機能が効かず、頭の回転も遅い状態は、脳がアンバランスな状態で発達しているということ。その弊害は大きいようです。
「たとえば、学校の成績は抜群に良くて、いわゆる知能指数、IQが高いと思われる人でも、就職してみると職場で『嫌なことはしない』など、社会性に問題が見られることも珍しくありません。仕事と対人関係は切っても切り離せないため、いくらIQだけが高くてもこういう人は、結局社会で成功することができないのです」
生きていくためには働かなくてはいけないし、働くためには社会でうまくやっていかないといけません。その根底を支えるのが「頭の回転」になるようです。成田先生は「社会で使える脳」、つまりは「回転が速い脳」を作ることこそが、育脳のゴールだと言います。
「そのためには、まずは生活リズムを見直しましょう。例えば小学生なら、夜は21時までに寝て、朝は6時までに起きてしっかり朝ご飯を食べる。脳機能の発達には、あまりつながらないように感じられるかもしれませんが、これが、昼間に行動する昼行性(ちゅうこうせい)の動物としての脳の土台をつくるので、小学校での学習活動や運動、子ども同士の関係性などすべてに対して意欲的に取り組める脳になります。結果、社会でうまくやっていくための『知識・経験・記憶』が十分に蓄えられ、良い大人になれるのです」
子どもの将来を左右する「頭の回転の速さ」。勉強の出来や人を思いやる優しいこころを作ってやりたいと思うなら、長い将来を見越したうえで、親が最も注力すべきは生活リズムで脳の土台を整えることのようです。
(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)