血のつながりがなくても「心は本当の親子」、国籍の違う家族が日本で一緒に暮らしていく希望の笑顔

血のつながりがなくても「心は本当の親子」、国籍の違う家族が日本で一緒に暮らしていく希望の笑顔

●そのまま入管に収容されてしまった

ハルちゃんは小学生になっていた。前は大丈夫と言われていたのに今さら「帰国しろ」と言われても納得ができない。

その場でアブドゥルさんは職員たちに取り押さえられ、そのまま収容されてしまった。残されたイメルダさんはパニックになった。どうしたら良いのかわからず、帰りのJR品川駅のトイレでバッグごと財布を忘れてしまった。バッグは戻ってくることはなかった。

ハルちゃんは、このとき「なんでお父さんは一緒に家に帰らないのだろう?」となんとなく思ったが、「きっとあとで帰ってくる」とあまり気には留めていなかった。一週間が過ぎて、さすがにおかしいと考えるようになり、お父さんがいないことで、夜は寂しくて泣くようになった。

アブドゥルさんは、1カ月に1度、アクリル板で隔てられない親子面会で、たった30分だけハルちゃんと抱き合うことが許された。一方、イメルダさんには触れることさえ許されない。三人ともこの状況に辛くて泣いた。ハルちゃんは「いつうちに帰るの?」と何度も聞いた。

夫の収容中、イメルダさんは一人でハルちゃんの面倒を見ていて働いてなかった。貯金を切り崩し、借金してなんとか日々を支えていた。

アブドゥルさんは収容中、体調を崩しても、なかなか病院に連れて行ってもらえないことが辛かったという。職員には「お前の本当の娘じゃないんだから、インドに帰ればいいだろう」と言われ、何度も口喧嘩になった。

実はこのとき、イメルダさんとは婚姻関係にあったが、ハルちゃんとの養子縁組が成立しておらず、戸籍上でも親子でなかった。

●「パパとずっと日本で一緒にいたい」という気持ちは変わらない

アブドゥルさんは2020年に仮放免になった。収容されて8カ月が経っていた。新型コロナウイルスが猛威を振るったことがきっかけだと思われる。アブドゥルさん以外にも、多くの収容者が解放されることになった。

当日、イメルダさんとハルちゃんは東京入管まで迎えにいった。ハルちゃんはアブドゥルさんに抱っこされながら「パパを大切にするよ」とつぶやいた。収容中に痛めた腰と足をハルちゃんは何度もさすってやり、食事はハルちゃんがアブドゥルさんの口に運んであげるなど、甲斐甲斐しく世話を焼いた。

2024年6月、家庭裁判所の許可が下りて、ようやく養子縁組が成立した。アブドゥルさん家族を担当している西村安杜夢弁護士は「今後は再審情願により在留資格を得ることを目指しています。人道的な救済を求めていきたいと考えています」と話した。

ハルちゃんは現在、中学1年生になるが、相変わらず仲は良く、笑いの絶えない家族だ。明るいハルちゃんが冗談を言っては両親を和ませている。今でも「パパとずっと日本で一緒にいたい」という気持ちは変わらない。

もう二度と離れ離れになることなく、家族三人の明るい笑顔がふたたび曇らないことを願いたい。(ライター・織田朝日)

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