●子どもの認知機能力を把握していない親御さんが意外と多い
「コグトレを考案した背景にあるのは、生きるための土台となる“認知機能(記憶・言語理解・注意・知覚・推論・判断)”が弱いがゆえに、社会面・学習面・身体面で問題を抱え、生きづらさを感じている子どもが多いという現実があることだったんです」
そう話すのは、コグトレの考案者で立命館大学教授・児童精神科医の宮口幸治先生。わが子が学校生活でなんらかのつまづきがあり、悩んでいるという親御さんも多いかもしれない。そこで、親としてできることとは?
「まず、学習面というのがつまづきにつながります。見たり、聞いたり、想像したりという、認知機能ですね。この力が弱いと、勉強でも黒板を写せない、漢字を覚えられない、いろいろな難しい問題を解くうえで、すべてのベースなんです。わが子がその力をしっかり持っているか? わが子がどれだけの力を持っているのか? 意外と知らないものなんです」(宮口先生 以下同)
親御さんは、どうしてもテストの点数や計算、漢字などの出来で判断してしまうという。
「確かにそれしか判断できないのが現状です。専門的にみようと思ったら、どこか専門機関で検査を受けるとか、しっかりとした神経心理学的検査、知能検査を受ければなんとなくわかってくるのですが、普通はそこまでできませんよね。これが一番の問題で。じゃあ、学校の先生がわかるかといったら、やはり学習に置き換えて、“計算はどうか”“読み書きはどうか”“文章題はどうか”そっちばかりなんです。しかし、そうではなくて、計算や読み書きのもっと前に“書き写す”“記憶する”“見つける”“数える”…そういうことがベースになっているんです」
●子どもの心の扉は、子ども自身にしか開けられない
つまり、そのレベルのどこでつまづいているのか? を見なければならないという。
「見つける、数える…というと、簡単なように思えますが、それらがネットワーク状につながることで、ようやく難しい問題ができるのです。どんな問題でも、すべてこれらがベースになっています。例えば、“見つける”力だけが弱かったり、“数える”力がなかったら、いくら他のことができても問題は解けないですよね。まず、そのベースの力でつまづいていないかを見つけてほしいですね」
例えば、特に認知機能を強化するための『コグトレ みる・きく・想像するための認知強化強化トレーニング』(三輪書店)というCD-ROM付きワークがある。そのなかの、点と点をつないでいく簡単なワークシートをやらせてみて、それができなければ漢字はとても無理だという。つまり、そこからがスタートとなるわけだ。他にも、数えられない、数え間違えが多い、記憶できない、見つけられない、指の動きが遅いなど、つまづきポイントは様々だという。
「そういったピンポイントのつまづきが、結局は学習面での全体のつまづきで見えてしまう。これは、先生も気づきづらいのです。さらに、これらの土台は、勉強面だけに影響するものではありません。対人関係の土台でもあります。例えば、よくすれ違っただけで“あいつ睨みやがった”とか“俺の悪口言いやがった”という子どもがいますが、実際は勘違いのケースがよくあるんです。それも、見る力、聞く力、想像する力の弱さが影響しているのです」
さらに、このよう気づかせるときにぜひ注意してほしいことがあると、宮口先生は話します。
「決して、“こうでしょ”と、一方的に押し付けないようにしてください。本人がワークシートを楽しんでやりながら、自分のできること、できないことに気づかせることが大事です。子どもの心というのは、扉に例えると、取っ手が内側にしかないイメージです。つまり、大人側から開けられるものではありません。大人が無理矢理こじ開けようとすると閉ざしてしまいます。子どもが自分の力で扉を開けないと入っていけないのです。つまり、大人は押し付けたり、教えるのではなく、“気づきのヒント”をいっぱい用意してあげることが何より大事です」
親御さんや先生方には、このように大人が子どものためによかれと思って、ついやってしまう余計な言葉かけで、子どもが逆にやる気を失ってしまうケースを集めて4コマ漫画で分かりやすく説明した『子どものやる気をなくす30の過ち』(小学館集英社プロダクション)もぜひ参考にしてほしいとのことです。
わが子が学校生活で困っていたり、問題を抱えていると悩んでいる親御さんは、まずは、生きるための土台となるわが子の認知機能の力を把握するところからはじめてみてください。そこから、きっと改善への道が開けるはずです。
(構成・文/横田裕美子)