水分の取り過ぎは腎臓の機能低下を招く?適切な水分摂取量の目安は?

水分の取り過ぎは腎臓の機能低下を招く?適切な水分摂取量の目安は?

■健康なヒトが液体としての水分補給する量は一日どのくらいが良い?

ヒトの体水分量は、乳児約60%、成人男性約53%、成人女性約45%であり、一日活動すると体水分が乳児25%、成人10%失うという研究結果が出ています。そのため、毎日水分を補給する必要があります。では、一日にどれくらい水分を補給したら良いのでしょうか。
厚生労働省ホームページにある「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 (参考)水 や「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 (参考)水によると、水分の目安量としては、生活活動レベルが低いヒトで 2.3〜2.5L/日程度、生活活動レベルが高いヒトで3.3〜3.5 L/日程度と推定されています。
同時に、「水の必要量を算定するためには、1.出納法を用いた研究 または 2.水の代謝回転速度を測定した信頼度の高い研究が複数必要であるが、性・年齢・身体活動レベル別に算定できるほどには整っていない」と言っています。出納法や水の代謝回転速度という言葉を初めて聞いたという人のために説明すると、
1.出納法は、必要水分量=尿量+不感蒸泄+(糞便など)-代謝水 で求められます。不感蒸泄とは、自分では感じないで出ている汗のことです。高齢者になると、汗をかいている実感がなく、かつ口渇感が少ないため、あまり水分補給をしない傾向にあります。この状態が長期間に及ぶと脱水状態を起こし、熱中症や脳梗塞心筋梗塞を引き起こす原因にもなります。
簡易計算式(投与エネルギー・水分量をどう決める?)での算出方法では
必要水分量(ml/日)=年齢別必要量(ml)×実測体重(Kg)で計算します。(水分補給)
22~55歳の場合:35ml/Kg/日
55~65歳の場合:30ml/Kg/日
65歳超の場合 :25ml/Kg/日以上が年齢別必要量です。例えば、体重50㎏のヒトは1日1250ml必要だという事です。
2.水の代謝回転速度とは、身体における水分の出入りのことです。
今までは水の代謝回転(1日で体内の水分がどれだけ入れ替わるか)は不明でした。
早稲田大学や筑波大学などが23カ国・5,604人を対象にした共同研究によると、

1) 高温・多湿 高地 運動量の多い人は水の代謝回転が速い
2) 居住環境やライフスタイルも影響し 発展途上国の人は代謝回転が速い
3) 高齢になると男女差はほぼなく代謝回転が低下する
4) 成人の代謝回転は5%~20%と個人差が幅広く 筋肉や運動量が多い人は代謝回転が高く体脂肪率が高いほど低くなる
5) 高温・赤道付近・極寒地域では水分消費が増加し夏は春より水の喪失が0.7L/日多くなる
6) 胎児の成長や産後の授乳を行う妊産婦は 妊娠後期は+0.7L 授乳期+0.3L代謝回転が増える

と言っています。ただ、ここで注意すべき点は、例えば20歳代男性で1日に平均4.2ℓの水分が失われるとしても、1日4.2Lの水を飲む必要はないということです。体内では、エネルギー代謝の過程で産生される水が約10%(約0.4L)あります。また、呼気などからも水分が少し体内に入ります。そのため、このうちの85%程度(約3.6L)が目安の水分摂取の目安になります。さらに、食品の多くには水が含まれているので、「しっかりとした食事」をするだけでかなりの水分を摂取することになります。
日本人の場合、一般的な食事を3食取った場合、3.6Lの水分うち約半分を食事から摂取していることになり、「液体としての水分補給」として必要な量は1日約1.8Lになります。20歳代女性の場合では1日約1.4Lです。健康維持のためには、一定量の水分補給が必要です。

■腎臓疾患がある人や高齢者が液体としての水分補給する量は一日どのくらいが良い?

NHKトリセツショーの「腎臓」に関する放送によると、 腎臓病の中で最も患者数の多いのは、慢性腎臓病(CKD)です。慢性腎臓病の診療ガイドラインによると軽度から中程度の慢性腎臓病の人の水分摂取量の目安は1日に1~1.5Lとされています。慢性腎臓病は、心疾患や脳卒中になるリスクが約3倍、認知症になるリスクが1.7~2.6倍になると考えられています。また、「糖尿病」「高血圧」「肥満」「喫煙」これらに加えて、新たに「脱水」が腎機能低下の要因に挙げられています。脱水=腎臓の酸欠とされていますので、水分補給は大切です。慢性腎臓病の患者さんは、総じて飲水量が少ない傾向にあります。1日1L以下の飲水習慣があるヒトは、末期腎不全のリスクが上昇します。1~1.5 Lの飲水習慣のある場合が、末期腎不全のリスクが最も小さかったという研究結果がありますので、腎臓疾患がある人の目安となる水分量と言えます。
また、運動量の少ない高齢者はものどの渇きを感じにくいヒトが多く、脱水傾向に陥りやすいと言えます。熱中症予防のためにも、一日1~1.5 Lの水分量は、目安となる摂取量と考えます。

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