●「うちは妻が強い」という反論する悪気ない男性
「主に男性にみられる反応ですが、このような賃金格差や風土的な問題に対して、自分は何も悪いことをしていないと言いたいのです」
地域のジェンダーギャップの問題を指摘されると、彼らは悪気なく「女性には優しくしている」「自分は仕事をしている」などと反論するという。
また、男性側から「うちの地域の女性は弱くない」という反論も「あるある」だ。
「『うちなんか、母ちゃんに支配されている』から『うちは妻が強い』といった主張がありますよね。実際、女性がしっかりしていて、家の中で強い立場にあるのかもしれません。ただ、家の外の政治や経済における意思決定層において女性が増えなければ、ジェンダーギャップは放置されたままです」
九州特有ではなく、日本全国どこにでも見られることだと白河さんは強調する。
「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見や思い込み)が温存されやすい地域かどうかとも言い換えられます。地元が閉鎖的であればあるほどバイアスが残って、問題に気づかないままです」
男女の進学率に差があったり、議員や管理職に女性が少ないなど、各地で男女のジェンダーギャップは非常に大きい。
共同通信の『都道府県別ジェンダー・ギャップ』をみると、九州の各県は福岡県をのぞき、「議会の女性の割合」などの項目で下位に位置することがある。
ただ、東北や関西などでも低ランキングの県は見受けられる。
「男性にも女性にも”見えない特権”がそれぞれあり、特に男性にはある程度の特権があって、そのような特権を可視化され奪われそうになると、自分の実力だと言って抵抗するのではないでしょうか」
男性が男尊女卑を指摘されて出てくる反論は、特権側の立場にいるからこそで、自分に特権があることに気付きづらい構造もある。
「男性に同調する女性も存在します。たとえば、まだまだ男性議員ばかりの市議会の女性市議に聞くと『同じ女性、特に年上の女性から、政治は男の仕事なんだからと言われて、なかなか応援されない』と話すことがありました。女性議員さんも苦労されています」
●まだ九州は余裕のある社会?
ジェンダーギャップの問題は全国的なものであり、「さす九」のようなスラングのように地方を限定して揶揄するような振る舞いは好ましくない。
ただ、「さす九」に寄せられるSNSなどの反応を見るにつけ、「実は九州はまだまだ男性優位でも回っている余裕のある社会なのではないか。女性差別しているという気持ちもなく、女性に優しくしているんだと言い続けていくうちに、女性が地域からいつの間にかいなくなっていくおそれを感じます」と白河さん。
「男性は男性らしさの規範に従っていることが有利に働くことがあります。女性も同じように女性らしさの規範があるけど、その中にいては経済的に自立できないとか不利に働くことが少なくありません。だから女性は規範から逃げ、男性は残るのです。
男らしさの呪いにからめとられると、メンタルヘルスに影響が出て男性自身も苦しいということもあります。そして、気が付かないうちに女性はその地域社会からいなくなっていく。見えない特権を見ようとしないで、男らしさの檻に入っているうちに、知らない間にみずから首をしめていると言えると思います」
配信: 弁護士ドットコム