ゆとり教育によって学校教育の質が低下した
「子どもの学力は塾に通っているかどうかで決まってしまう」と指摘するのは、『子ども格差の経済学「塾、習い事」に行ける子・行けない子』(東洋経済新報社)の著書であり、京都大学名誉教授の橘木俊詔(たちばなきとしあき)さん。
橘木さんによると、ゆとり教育によって学校教育の質が低下したことが教育格差を引き起こしているひとつの要因なのだとか。以下調査結果は、関西都市圏の小学校5年生と中学校2年生を対象に国語・算数・数学の学力調査を行ったもの。
「1989年と2001年を比較した調査結果を見ると、学校での勉強と教育に頼っている非通塾生の学力がかなり低下していることがわかります。日本の教育界では過剰な受験教育が進み、子どもにさまざまな害を与えると批判され、ゆとり教育論が優勢になった時期がありました。教科書が薄くなったり、教科時間数が短縮されたりした結果、学力が低下したと解釈することも可能です」
特に中学生の数学を比較した数値は、通塾生は-1.3ptなのに対し、非通塾生は-8.0ptと、大きく落ち込んでいることがわかります。
補足すると、ゆとり教育に関しては、2016年5月に馳浩(はせひろし)文部科学相がゆとり教育との決別を宣言するなど、「脱ゆとり」が進められています。しかし一時とはいえ、ゆとり教育が子どもたちに与えた影響は大きいのかもしれません。
小中高の教育法が塾に依存しすぎている
前述の通り、塾に通う子どもとそうでない子どもの間には、大きな学力差があるのは明白。「塾に通っていないのだから当たり前」という考えもありますが、橘木さんは次のように話します。
「塾に通う子と通わない子で学力が違うということは、学校教育では子どもの学力達成が完結していないことになります。それは私の好みではありません。何故かというと、塾に行けるかどうかは親の年収で決まるからです。塾の有無にかかわらず、学校で教育を完結できることが理想だと思います」
ただし、学校で教育を完結させるためには、さまざまな課題があるといいます。
「現在小学校は1クラスあたり30人程度の児童がいると思いますが、それを子どもの数を減らし少人数教育にしたり、先生を2人にするなど、いろいろな方法が考えられます。しかし、これらを実現させるためにはお金がかかります。教師や教室を増やすためには、公共部門(中央と地方の行政府)が教育支出をドカンと増やさなければなりません。ところが、非常に不幸なことに公共部門が教育費に支出している額は、世界各国と比べるととても少ないのです」
橘木さんの著書によると、「対GDPの公的教育費支出額の比率(2010年)」は、OECD諸国のなかで日本は最下位となっています。これはどういうことなのかというと、日本では子どもの教育費は国ではなく親が負担するということです。であれば、国として教育費を引き上げればいいと考えられますが、そうするためには税率の引き上げなどの財源の確保も重要となり、すぐさま解決できる問題ではありません。
親の年収が理由で塾に通えず、いい学校へ通えない。結果、子どもが社会に出ても親と同じような状況になる。そんな負のスパイラルから脱するためには、親の意識だけではなく、国や社会それぞれの考えを見直す必要があるのではないでしょうか。
(文・奈古善晴/考務店)