ところで、インフルエンザのワクチンを打たない人の言い分として、よく耳にするフレーズがある。
それは、「予防接種をこれまで全然しなくてもインフルエンザにかかったことがなかったのに、たまたま予防接種をした年だけかかった。だから自分の場合は、やらないほうが良い」というもの。
確かに、「ワクチンを打ったのにインフルエンザにかかった」、「ワクチンを打ったときだけかかった」などと訴える人はいるけれど、こうした現象はなぜ起こるのだろうか。
国立感染症研究所・感染症疫学センター第二室長の砂川富正さんは言う。
●ワクチンを打ってもインフルエンザになるのはなぜ?
「国内のインフルエンザのワクチン自体は、ウイルスをバラバラにして有効な成分だけを接種しています。すなわち、『不活化』されています。ですから、ワクチンを打ったことでインフルエンザにかかることはありません。インフルエンザの流行が始まった時期の接種の場合、ウイルスの曝露(ばくろ)を受けた可能性はあります」(砂川さん 以下同)
「ウイルスの曝露」って、いったい何?
「インフルエンザウイルスに限らず、ほかの病気の場合も同様ですが、流行する時期に遅いタイミングでワクチンを接種すると、効果が間に合わずにインフルエンザにかかってしまったということです」
●インフルエンザワクチンに関する疑問あれこれ
さらに、流行している時期に熱を出したなどの症状からインフルエンザだと考え、ウイルスの検査をしてみると、実際にはインフルエンザじゃなかったというケースもあるという。
「インフルエンザのワクチンを接種したことで、局所の反応として腫れたり、熱感を伴ったりする場合もあります。しかし、『鼻水が出た』『風邪のような咳が出る』などの症状を伴う場合は、ほかの感染症にかかっている可能性が高いです」
また、インフルエンザのワクチンを打ったからといって、ほかの感染症にかかりやすくなることもないそう。
「よく『身のまわりでインフルエンザが流行し始めたから』といって、慌ててワクチン接種のために病院に行く方がいますが、すでに流行している段階では、逆に病院でウイルスをもらってしまうケースもあります。予約制の病院で、患者と明確に区切られた時間帯・場所で接種を受ける、あるいはワクチン接種をあきらめ、感染しないためのほかの対策を十分に行って予防に努めるほうが良いかと思います」
●ワクチンは免疫をつけるのに効果的
ちなみに、「ワクチンを接種しても、流行しているウイルスの型が違うと感染してしまうから、意味がない」という人がいる。逆に「ワクチンを接種すれば、もしインフルエンザにかかっても重症化しない」と言う人もいる。どちらが正しいのか。
「確かにインフルエンザのウイルスは変異しやすく、ワクチンを接種しても、感染してしまうことはあります。しかし、ワクチンを接種したグループと、接種していないグループとを比較した場合、接種したグループのほうが重症化しにくかったという研究結果があることも事実です」
インフルエンザのワクチンは完全な予防策ではないとはいえ、免疫をつけるには一定の効果があるよう。子どもの場合も地域で予防接種費用の助成があることも多いので、費用のことも含めて、家族で考えてみるのも良いかも。
(取材・文:田幸和歌子 編集:ノオト)