だが、筆者の周囲にいる何度かの妊娠・出産を経験しているママにリサーチをかけたところ、「何それ?」と首をかしげる人も多い。
果たして胎盤は本当に老化するのだろうか? だとしたらお腹の赤ちゃんに影響は? 日本産科婦人科学会にも籍を置く、浜松医科大学の金山尚裕医師に話を聞いた。
●胎盤の状態は間接的にしかわからないのが普通
「『胎盤が古くなる』という言い回しが一般的なのかわかりませんが、胎盤の老化という言葉は通常、あまり使われないはずです。なぜなら現在の医療現場では、胎盤機能そのものを直接的に調べる方法がないからです」(金山医師 以下同)
胎盤の機能を調べる方法がない? お腹の赤ちゃんに栄養と酸素を送り込む大事な臓器であるはずなのに、なぜだろう?
「私たち医師は胎盤の機能そのものではなく、胎盤と胎児をつなぐ臍帯(へその緒)の血流、胎児の心拍数、羊水量などをトータルで見ながら、胎児の状態を診断します。胎児が無事に育っているなら、胎盤の機能も問題なしということ。つまり胎盤の状態は間接的にしか診ていないのです」
●「胎盤が古くなる」の噂が出回った可能性とは
胎盤の細胞や組織を採取する、特殊なホルモン検査をするなどしない限りは、胎盤そのものの状態はわからないのが普通だそう。ではなぜ「胎盤が古くなる」といった言説がネット上で広まるようになったのだろう?
「妊娠37週以降に起きる胎盤の石灰化と混同されているのかもしれません。しかし、臨月に入るとなぜ胎盤の石灰化が起きるのか、メカニズムはわかっていませんが、胎盤は血液の流れがすごくゆっくりなので、その分、いろんなものが胎盤の細胞である絨毛(じゅうもう)につきやすい。カルシウムなどの成分が付着して石灰化を招くのでは、と考えられています」
「石灰化」と聞くと不安になるかもしれないが、心配はいらない。
「37週を過ぎると、石灰化していくのはごく普通のことです。石灰沈着がみられたからといって、医師からとくに指示がなければ、普段通りで大丈夫。むやみに心配する必要はまったくありません」
憶測だけで書かれたネット上の古い記事を鵜呑みにするのは、それこそ余計なストレスのもと。医療の現場は日々アップデートされている。疑問はその都度、医師に確認しよう。
(取材・文:阿部花恵 編集:ノオト)