オーガニック食品に医学的根拠はない?
オーガニック志向の強い人のなかには、「オーガニック食品は栄養価が高い」と考える人もいますが、実際は…?
「2009年に英国食品基準庁(FSA)の発表により、証明されましたが、オーガニック食品だから栄養価が高くなるといった医学的根拠は特段ありません」(有路先生、以下同)
FSAの発表とは、オーガニック食品の栄養価と健康に与える影響について医学的根拠を調査したもの。調査結果は、オーガニック食品の優位性は認められず、健康にいい影響を与えるほどのものではないことが判明しています。
残念なことに、「オーガニックだから健康にいい」ということにはなりませんが、「オーガニック“野菜”が危険ということもなく、通常の野菜と何も変わらないでしょう。生態系にもいい影響をもたらすので、その点はポジティブに評価すべきです」と、有路先生はいいます。
食品添加物を使用していない食品は危険?
では、「食品添加物は体に悪い」という考えについてはどうなのでしょうか?
「一日摂取許容量(ADI)で設定されている我が国の使用基準内において、食品添加物が健康に悪影響を与えることはありえません。例えば、ウインナーに使われる亜硝酸Naが体に悪影響を及ぼす水準は一度にウインナーを60kgほど食したとき、という水準です。なお亜硝酸Naはキャベツなどの野菜に大量に含まれていて、ロールキャベツの中のひき肉がピンクっぽくなるのは、この亜硝酸Naの効果です。発がん性でいうなら、添加物より野菜に多く含まれるシュウ酸の方が、リスクが高いことになります。しかし野菜は普通に食べるべきです」
…と、食品添加物を目の敵にしがちですが、実は、同じような成分が野菜にも含まれていることがあります。さらに、有路先生はこう続けます。
「気をつけるべきことは、食品保存料のもっとも重要な役割である食中毒原因菌の繁殖抑制です。封を開けた無添加のウインナーでは10度の環境下(開閉がある冷蔵庫内温度と同じ)で、60時間後には食中毒になる水準まで菌が繁殖してしまいます。しかし食品保存料を正しく使用したものでは菌の繁殖は抑えられます」
2012年に北海道札幌市内で発生した「浅漬けの集団食中毒事件」に関しても、「本来食品添加物として保存料が正しく使えるのであれば、あのような痛ましい事故は発生しなかったともいえます。食品添加物で亡くなる人は我が国にはいませんが、食品添加物があれば助かったであろう感染性食中毒で死亡した人は多くいます」とのこと。
手作りと市販品の離乳食、安全なのは?
ママがもっとも気になることといえば、子どもの食事ではないでしょうか。オーガニック食材を使用した手作りと、市販品の離乳食、どちらがより安全…?
「十分に衛生環境が整っている調理環境で調理され、かつ十分に加熱しているのであれば、食材そのもののリスクには差がないでしょう。なお製造面で見ると、我が国の市販の離乳食は世界でもっとも安全と見られているので、市販品の安全性は極めて高いです。自宅で作る場合は、自宅の衛生環境が整っている必要があるでしょう。それくらい自宅のキッチンは既製品を作る工場と比べて、より多くの菌で満ちているのが普通です」
「市販品の離乳食は、何が入っているかわからないから危険」と考えるママもいますが、安全面で考えれば、十分安心できるものではないでしょうか。
最後に有路先生は、こう話します。
「オーガニックはある意味ブランドであり、楽しむ人にとっての価値であるため、それを否定することはありません。しかし、安全性の高いものである市販品や、食品添加物を使用している食品を危険である、というように主張することは、科学的に誤りであるので、その点は惑わされることのないように、多くの人にご理解いただきたいところです」
「オーガニック=安全」、「食品添加物=危険」と考えて、どちらかに偏るよりも、適切に使い分けたほうが、より暮らしやすくなるかもしれません。
(文・奈古善晴/考務店)