結婚生活の満足に、大きく影響する家事分担の考え方
夫婦間で時間や金銭、趣味など価値観の違いに直面するのは、せいぜい月5~10回ほど。話し合うこともできるでしょう、しかし、家事分担の考え方の違いは、毎日何回もの頻度で直面することになります。子どもの送迎、夕食の支度・後片付け、お風呂、オムツ替えはどちらがするのか…。遅くまで仕事ができるのか、睡眠をとることができるのかなど、仕事と家事の問題は都度必要に迫られ待ったなしでやってきます。これらの問題について夫婦の意見が一致していなければ、毎日の大きな不満足に陥ります。
そもそも良好な関係の土台となるのが、妻と夫は共通の見方を持っているという感覚です。二人が「公平」について同じような見方ができれば「対等」です。お互い相手や結婚に対して同じような義務感や役割を持って気遣いができていれば、お互いの絆や一体感は深まります。「あなたと私」ではなく「私たち」という感覚です。
家事はわかりやすい作業だけでなく、名前のつかない雑多な仕事の連続です。この雑多な仕事をどう分担できるのか。このことの不一致は、結局二人の「公平」な感覚、お互いが「対等」であるという感覚をむしばみ、結婚に対する役割や責任を相手が果たしていないという気持ちになります。
実際に共働きをしている妻においては、夫より250%以上子どもの世話をし、家事の15%以上を家事分担している調査もあります(※1)。つまり、平均的な共働きの家庭で、妻は夫より1週間に15時間以上多く家事・育児という仕事をしており、1年間に換算すると、1カ月以上多く仕事をしていることになります。しかも計算の便宜上24時間ぶっ通しで働いていたという試算なので、妻の本来の体感ですと、もっと多くの時間を夫より負担していると感じているでしょう。
このことは、精神的な負担だけでなく、さらに妻自身のキャリアや健康にも大きく影響するため、「不公平である」という思いが妻にとってはますます大きくなります。
この思いを放置していると、妻と夫は一緒に住んでいること、生まれた子ども以外に共通するものは、もう何もないと感じるようになります。妻の夫婦の土台となっている「公平」で「対等」であるという認識が崩れることで結婚の満足度はどんどん低下し、お互いの不和につながります。
私たちに根づく男女観「イデオロギー」
夫は、なぜこれに気が付かないのでしょうか?妻がこの状況を都度伝えていないのでしょうか?
おそらく伝えている方が多いのではないでしょうか?
ですが、この日本には男女観「イデオロギー(思想傾向)」の呪縛があるように思います。
妻のどういった行動が女性にふさわしいかという夫や妻自身の考え方が、キャリアや家事などの雑多な仕事に対する態度に大きく影響します。育児や家事を女性の仕事と考えられてきた旧来型の考え方に私たちがどれだけ縛られているかにかかわってきます。
旧来型の女性は、家事の70〜90%を率先して実施します。平等型の女性は、伝統的には女性の仕事とされてきたことを男性にも分担してほしいと期待します。この期待に対して、旧来型の男性は不満に思い、平等型の男性ならそのことに理解を示します。
あなたはや夫は、旧来型、平等型、それとも中間型でしょうか?このことについて分析しお互いの負担を伝えあい、どうしていくかを対話するのは、夫婦が「対等」で「公平」であるという感覚、つまり結婚の土台となる重要なことなのです。
裏切られた気持ちに手当をしていく
これまで話してきた夫婦の土台のこともそうですが、私たちは結婚や子育てについて、様々な期待を相手にもっていました。この期待がそもそも現実的ではなく楽観的なものだった場合、相手をさらに非難しやすくなります。「あなたが悪い」「お前が悪い」こうなってしまうと、毎日お互いがお互いの攻撃の矢面にたち、結婚生活自体のストレスが大きなものとなってしまいます。
妻のストレスには、二人の関係がくずれて精神的な支えがないという「心理的なストレス」の他に、そもそも家事分担の多くを担当しており、睡眠不足や疲労など「肉体的なストレス」もベースにあるということを多くの方に認識してもらいたいです。
母親としての適性や満足など理想のイメージとギャップ、夫のコミュニケーションのコツ、夫婦をワンチームとして考え対話していくことについて、摩擦管理方法やご自身の情緒傾向など、これまで様々な視点から夫婦の絆を強くする方法をみてきました。今夫婦で陥っている状況が何からきているのか、いろいろな視点から考えることができます。こんがらがってしまった糸をほどいていく作業のように、夫婦の関係の改善の道は、地道ではてしなく遠く感じられるのではないでしょうか。
ですが、お互いが「子どもの成長を一緒に支援する」といったことにおいては、期待や役割が一致している領域かもしれませんね。子どもがよりよいコミュニケーションや問題解決を学んでいく上で、夫婦のコミュニケーションや問題解決の方法がモデルとなります。今の私たちの方法は、子どもに教えたいやり方でしょうか?
もし価値観や意見が一致しないときや自分の欲求と相手の欲求が違うとき、どんな風に話し合っていくのか、大声でわめいたり相手を非難したりする方法が有効なのか、よく考えてみると少し紐解けてきませんか?
次世代の子どもに「生きるために何を伝えたいか対話する」ことが、夫婦の絆やあり方、コミュニケーション、問題解決の仕方を改善する道なのかもしれません。
すぐに解決できないことは、ゆっくり構えて対応するということも必要です。少しずつ前に進んで家族の絆を深めていきましょう。
<出典>
※1 Belsky, J., Kelly, J. (1994) The Transition to Parenthood. New York, Delacorte Press.(ジェイ・ベルスキー, ジョン・ケリー(1995)子供を持つと夫婦に何が起こるか,草思社)