いつか脱ぎたい赤い靴/佐々木ののか #卒業コラム
この記事は「アリシー」から提供を受けて掲載しています

いつか脱ぎたい赤い靴/佐々木ののか #卒業コラム

第4回 想いを文字にしてみる。
\佐々木ののかさんの #卒業コラム /
アリシーの3月特集は「想いを文字にしてみる」。3月11日の“コラムの日”にちなんで、人気作家やコラムニスト、漫画家など様々な方々に“卒業”をテーマとしたコラムを依頼。“性愛”をテーマに執筆する人気ライターの佐々木ののかさんにも寄稿いただきました。

おニューの彼女は私よりブスか料理のできない子にして。別れた恋人たちの今後を想うとき、ずっとずっとそう願っている。

別れた恋人には幸せになってほしい。だけど私より可愛い人や料理ができる人、その他“女”で優っているような人とは絶対に付き合ってほしくない。プレパラート、はたまたポケットに入れっぱなしのクッキーのように、自尊心がきっと粉々になる。

かつて別れた恋人が美人と付き合ったとき、私は彼に「人でなし」と叫んだ。人でなしなはずはなかった。だけど、それほど傷ついた。

パン屋の女と付き合い始めたことを知ったとき、気づけば私はそのパン屋を訪れていた。とは言え、関係を壊したいわけでもなんでもない。私はどうしたらいいかわからなくなって、事情を知らないパン屋の女がニコニコしながら勧めるパンをすべて買うだけのただのいい客になって店を出た。何をやっているんだと思いながらパンを食べたら、食べた分だけ涙が出てきた。表面張力ギリギリの感情。私はしっかりと傷つきにきたのだと思った。かなわない。料理のうまい女は女らしいから選ばれて当然。だから私は選ばれない。
photo/satoko mochizuki

私は自分のことが好き。
変な髪色、勝気な性格、悪くはないなと思ってる。

だけど、そんな誇りや自信もひとたび男の人の前に立ったらシュルシュルとあっという間に萎んでしまう。男の人にありのまま、受け入れられるはずがない。

黒髪のほうがモテるに決まっているし、セクシュアルな話を書いている女はワンナイトには誘いやすくても恋人候補からは遠ざかる。売られたケンカをすぐに買うのも女らしくはないなと思う。男の人の前では私、まるでしなびた風船だ。

だったら黒髪にして大人しく立ち居振る舞っていればいい。整形だって抵抗がないのだからその気になれば、満足する顔に変えたらいい。なのに、そうはしたくない。自分で自分が気に入っているからだ。そうはしたくないのにどういうわけか“女らしくない”自分をどこかで見下している。この気持ちは何だろう。

そもそも“女らしい”とは、何なのだろう。圧倒的美人が、料理のできる人が、女らしいのだろうか。きっとそれさえ幻想だ。偏見だ。わかっている。だけど、わからない。私は私でいたいのに“女として”選ばれたい。虚構に振り回されてチグハグな“女”を履いて踊り続けている。小さい頃に、知らぬ間に、拾った靴は窮屈だ。わかっているのにどうしてずっと赤い靴が脱げないのだろう。いっそこの足、刈ってください。

私は選ばれたい。男の人に選ばれたい。
“女”がうまくできない、だから、きっと私は選ばれない。

だけど、私は私でいたい、ありのまんまで選ばれたい。
どこで身につけてしまったのかもわからない赤い靴を脱ぎ捨てて、裸足で自由に踊る姿を愛されたい。

私は選ばれたい。男の人に選ばれたい。ありのまんまで選ばれたい。

いつか小さな赤い靴を捨て、窮屈な私を卒業したい。

(佐々木ののか+アリシー 編集部)
アリシー 編集部
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アリシー編集部は、30代を目前に漠然とした不安を抱くも、なかなか一歩前に踏み出せない女性(=いもむし女子)に向けて、いつもの日常がちょっと豊かになるようなコンテンツを提案しています。きっと自分らしい生き方を見つけるきっかけになるかも。
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女性向けに情報を発信するWebメディア「アリシー」は、2019年6月13日をもってサービスを終了しました。グルメやファッション、マンガ・エッセイなどアリシーの一部コンテンツは、姉妹サイト「ママテナ」に移管しております。引き続きお楽しみください。
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