隣の芝生は青い…。他人と比べて陥る「相対性剥奪」感との付き合い方
この記事は「アリシー」から提供を受けて掲載しています

隣の芝生は青い…。他人と比べて陥る「相対性剥奪」感との付き合い方

人のものは良く見える?
SNSの普及で他人の生活ぶりが可視化され、「いいなあ……」とうらやましくなるばかりでなく、比較して落ち込んだり自己嫌悪になったりしがち。そんなときは、「相対性剥奪」感にとらわれているのかもしれません。無意識に陥りがちなその感情と、どう付き合えばいいのでしょうか? 心理カウンセラーの山口真央さんにお話を伺いました。

■「相対性剥奪」の定義とは

──まず、「相対性剥奪」とはどういうことでしょうか?

「言葉のとおり、絶対的ではなく、相対的な環境で価値を“剥奪”されること。他人と比べて自分が“損している”“劣っている”と感じて不満を抱くことです。この言葉の名付け親である社会学者のW.G.ランシマンは、相対性剥奪感が生じる条件として、次のように定義しています。

① 個人がある物事Aを望んでいる。
② 他の人がAを手に入れているのを知っている。
③ 自分にもAを手に入れる資格があると感じている。
④ Aを手に入れることは不可能ではないと考える。
⑤ 自分がAを手に入れていないのは、自分が悪いからだとは思えない。

こういった条件がそろうことで、相対性剥奪感が起こりやすいとされています」

──「隣の芝生が青く見える」という感じですか?

「どんな相手でも隣の芝生ならば青く見えるというわけではなく、この場合は『自分も手に入って当たり前なのに自分は持っていない』と感じるところがポイントです。明らかな差がある人ならともかく、同じくらいなのに自分は持ってない、ということがストレスになるんですね」

──最近はSNSの発達で、それこそ人が自分には持っていない何かを持っているということが、目に見えてわかりやすくなっていますよね。

「だから、誰にでも起こりうることではあります。むしろ当然起こる心理なんです」

■相対性剥奪感を感じやすい人のタイプは

──特に陥りやすいのは、どういう人でしょうか?

「『過剰同調性』の話にも通じますが 、自分でなく、他人に軸を置いてしまっている人です。ほとんどの人は自分のパーソナルエリアをきちんと持っていますが、他人軸の人は自分では自分のエリアにいるつもりでも、実は相手のエリアに入ってしまっています。だから、そこから見て『自分の庭はたいして良くない』と感じてしまうんです」
──他人と比較して落ち込みやすい人は、自分に軸を置いていない、ということですか?

「そうだと思います。最近よく話題になる『自己肯定感』ってありますよね。その自己肯定感が低いと陥りがちなのですが、何者かと比較するのではなくて、まずは自分を肯定してあげることが大事です。比べるとしても、過去の自分と比べる。本当は、他人と比較する必要なんてないんです。基本的には、人との境界線を持つことが大事だと思います」

■つい比べてしまう、染みついた思考習慣を変えるには

──わかっていてもつい人と比べてしまう、ありのままの自分を肯定できないという人もいるかと思います。そういう人は、どうしたら思考のクセを変えられますか?

「他人に軸を置く思考パターンが染みついてしまっている人が、急に自分に軸を戻すのは確かに難しいですよね。まずは急に変わろうとしないで、簡単な目標を課してみてください。たとえば、今日自分がよかったところを1つ見つける。見つけられたら『今日はできた』と、前の自分と比較をする。大事なのは、ほんのちょっとずつ変わることです。断れない人が急にNOというところまでいくのではなくて、自分の今の気持ちはNOなんだということがわかる、くらいでOKです」

──そんなちょっとでいいんですね。

「習慣を変えるには3~5%くらいの変化が大事だと言われています。徐々に山道をのぼるように、螺旋階段をのぼるように、少しずつ上にあがっていくイメージです。

習慣引力の法則というものがあって、人間というのは良くも悪くも“今”を守ろうとします。基本的に、省エネ運転をしないと生きていけない生き物なので、歩くことひとつとっても『右足を出して左手が出て、次に左足を出して、右手が出る』なんてことをいちいち全部考えないでできていますよね。でも、長年親しんできた習慣を変えるというのは、このレベルのことを変えたいわけです。3~5%以上の力で変わろうとすると、人間が生きていくための仕組みとして全力で阻止してしまいます」

──確かに、いきなり理想の自分を思い浮かべて大きな目標を掲げると、「できっこない」という気持ちが先にくる気がします。

「人間は変化に対していつも通りを守ろうとします。なので、立派な目標は遠くに立てて、まずはその実現に向けてごく小さな目標を立ててほしいです。例えば自転車に乗るときって、遠く前方を見ながら走りますが、『足元に石がないかな?』と近くを見ることも大事ですよね。最初は『本当にこれで変われるの?』と思うくらいささやかなものでOKです。『こんなふうに変わりたいな』というイメージができたら、小さなハードルを課して、毎日『よしできた』『よし今日もできた』というのを繰り返しましょう。しばらくして振り返ってみたら『おお、いつの間にかこんなに変われてる』と思えるはずですよ。

他人にとってはそれが簡単に手に入るものだったとしても、その人はきっと別のことと向き合っています。ハードルの内容が違うだけ、順番が違うだけで。だから、比べても意味がないんです」

■SNSは、装飾された一部の世界に過ぎない

──例えばSNSなどで、他の人が自分の持っていないものを簡単に手に入れているところだけを見て比較しても意味がないということですね。

「SNSはアクセサリーと一緒で、着飾ろうと思えばいくらでも着飾れますよね。人と人のかかわりにおいて、言葉や映像って一部なんです。表情や空気感、相手の動悸といった非言語的コミュニケーションが大事じゃないですか。もちろん文章でも伝わりますが、情報がある程度遮断されています。SNSは、装飾された一部の世界に過ぎないと肝に銘じておくべきです」

──それでも、つい振り回されてしまいがちですが……。

「大事なのは、『本当はどうなの?』と自分の心の声を聞くことです。例えば結婚して幸せそうな友人を見てうらやましい、なんで自分はできないのか……と自己嫌悪に陥ったとしても、それは『本当に結婚したいの?』ということですよね。

相手が誰でもいいなら恐らく結婚できます。そうではなくて本当に自分が選んだ人と結婚したいのであって、今はその相手がいないだけ。友人だって、今は結婚しているけど離婚するかもしれない。そんな意地悪なことを考える必要はないんですが、自分と人を“分ける”ことを意識してください。繰り返しになりますが、他人との境界線をきちんと持つことが大事です」
つい人と比較して自己嫌悪に陥りがちな「相対性剥奪」感を感じている人は、いったん「他人に軸を置いて考えていないか?」と振り返ってみましょう。その上で、もし他人軸から脱したいときには、きちんと自分の軸を持つために、小さな目標をたてて習慣を変えていくところから始めてみてくださいね。

(小林麻美+アリシー編集部)

<取材協力>心理カウンセラー・山口真央さん
小林麻美
小林麻美
ミーハー成分多めなフリーの編集兼ライター。三十路を過ぎて二度の出産を経て、体力の低下を実感中。疲れても疲れてなくても、何はなくとも甘いものを摂取していたい。家族旅行やお出かけも大好きだけど、基本は家でマンガを読みながらゴロゴロするのが好きなインドア派。
ミーハー成分多めなフリーの編集兼ライター。三十路を過ぎて二度の出産を経て、体力の低下を実感中。疲れても疲れてなくても、何はなくとも甘いものを摂取していたい。家族旅行やお出かけも大好きだけど、基本は家でマンガを読みながらゴロゴロするのが好きなインドア派。
女性向けに情報を発信するWebメディア「アリシー」は、2019年6月13日をもってサービスを終了しました。グルメやファッション、マンガ・エッセイなどアリシーの一部コンテンツは、姉妹サイト「ママテナ」に移管しております。引き続きお楽しみください。
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