ロールモデルがいない世代、それが今の30代の女性たち。
この数十年で女性たちの生き方、あり方は、ゆっくり変わりつつあります。だからこそ、何を目指せばいいのか、自分の生き方はこれで正しいのかと迷ってしまうことも。そんな中で女性向けWebメディアが届けたいこととはなんなのか。
DRESS編集長・池田園子さんとアリシー編集長・藤田佳奈美が対談。年も近く、境遇も似ている2人が、自分らしさと生き方について語ります。
■メディアを体現するのが「編集長」
▲左・DRESS編集長池田さん、右・アリシー編集長藤田
藤田佳奈美(以下藤田):池田さんはDRESSに関わるようになったのはいつごろからですか?
池田園子(以下池田):2016年1月からですね。2015年からDRESSのWebコンテンツでたまに書かせてもらっていたんですが、依頼してくださっていた編集長的な役割をされていた方が転職することになって。私となじみがあったことや、web系のメディアの文脈を分かっていそうだからということで、編集長の打診をいただきました。
藤田:編集長はメディアを体現している存在だと思うんですけど、やっぱりDRESSも池田さん自身が反映されている気がします。池田さんの好みや思考がすごく伝わってくるメディアだなと思っていて。そのあたりは実際、意図的にやられていたんですか?
池田:引き継いだばかりのころはメンバーも非常に少なく、コンテンツを決めるのはほぼ私の裁量に任されていたようなものでした。なので、そういう意味では自分の色をけっこう出せましたね。そのときの私が考えていたことや状況をコンテンツにしやすかったっていうのはあると思います。編集長になったのは離婚してすぐのころだったんですけど、それもあって当時は「女を磨く離婚道」という離婚コンテンツもありました。藤田さんもアリシーで「20代の離婚白書」というエッセイを書かれていましたよね。
10年連れ添った彼と離婚した20代の私が選ぶ「結婚しない人生」
▲アリシーのブランドブックに興味津々の池田さん
藤田:そうなんです。私も似たような流れで離婚もして、アリシーの副編集長になって、そして編集長になって。池田さんとは共通点がいろいろあるな、って思っていたんです。
池田:藤田さんの離婚のエッセイは、読んで元気づけられる人もいますよね。わりと正直に自分をさらけ出せる人なんだなあと思いました。
■メディアの特集で伝えたいこと
藤田:DRESSの特集って5月特集「休む」みたいに抽象的、概念的なものを特集として出されている印象があります。特集はメディアの看板だから、仮に数字がとれなくてもメディアが伝えたいことをやるべきなんじゃないかなと思っているんですけど、DRESSはどういう考え方で特集を取り組んでいますか?
池田:まさにアリシーと近い感じで、DRESSのブランディングをするためのコンテンツという位置づけでやっていましたね。すぐに検索に強いコンテンツにならなくてもいいし、すぐに数字につながらなくていい。いま、DRESSが伝えるべきことを伝えるコンテンツを特集にしています。
藤田:アリシーで一番反応がよかったのは2019年2月の「愛しのサバ缶。」特集で、「バレンタインシーズンに女性メディアがチョコではなくサバ缶を取り扱った」っていろんなメディアの人に触れてもらいました。DRESSだとどの特集が評判でしたか?
池田:数字だけではちょっと計りづらいですけど、2019年3月の「あの子が来る、今月も。」というタイトルでつくった生理特集は全体的によかったと思っています。たとえば、生理時の“神対応”が話題の夫婦にインタビューした記事「生理が来るたび、夫をもっと好きになる」のように、ソーシャルで広がりやすく、コメント付きで言及される記事が目立ったんですよね。記事の内容がSNSと親和性が高く、シェアされやすかったのだと思っています。
「生理が来るたび、夫をもっと好きになる」生理時の“神対応”が話題の夫婦にインタビュー
藤田:確かに、引用リツイートでもよく見た気がします。DRESSの特集はどれも印象的ですけど、パッと出てくるのは私もやっぱり「生理特集」ですね。
DRESSは具体的にどのあたりの年齢層をターゲットとされているんですか?
池田:ペルソナを決めようとした時期もあるんですけど、ターゲットの周辺の人も読みにくるのがウェブメディアなので、そんなに細かく決めなくていいかなと思い、明言はしていないんです。なので、特集自体も幅広い女性に刺さるような内容というところで落ち着きましたね。
藤田:幅広いところを狙うと誰にも刺さらないと私は思っているんですけど、DRESSは届いている層が明確というか、読者像が分かるんですけど、どうしてなんでしょうね。
池田:ある程度絞っているのはあるかもしれないです。この間の生理特集だと「男性にも知ってもらいたい」というのも裏テーマでした。当事者だけじゃなくて、パートナーや周りの人にも知ってほしくて。それで、男性が生理になったらこういう状況だよ、みたいなイラストで仕掛けたりしましたね。
■読まれる記事とは?
▲お互いの媒体の記事を確認しつつ……
池田:この何年かで変わってきたことはありますか? 読まれる記事だったりとか、タイトルであったりとか、リード文はこうしたほうがいいとか。
藤田:答えが明確なものをなるべく早い段階で提示してあげたほうがいいと思うようになりましたね。「答えは読者にゆだねる」的なものよりは、分かりやすいものが求められているのかなって。それはやっぱりみんな忙しくて、誰かの声に耳を傾けるほどのゆとりを持てていないから、早く結論を教えてほしいのかなと。池田さんはどうですか?
池田:言語化するのは難しいですけど、読まれる記事は短いスパンで変わっていくな、という気もしてはいますね。たとえば、あるニュースアプリからの流入が多い傾向にある記事も、2ヶ月後ぐらいになると反応が薄くなっていることもある。読者の変化を見て新しいことをやっていくとか、「こういう記事はもしかして、読者の関心が低くなっている? じゃあ軌道修正しよう」みたいな早い判断とか、細かく変えていくことがすごく大事なんだなと思いました。
藤田:なるほど。そういえば検索で上位に入ってくるのって、わりとココロカラダ系のジャンルが多かったです。例えば病気って本質は変わらないじゃないですか。科学の進歩とかで処方の仕方は変わるんでしょうけど、例えばがんはがんとしてあるし、内容は変わらない普遍的なもの。そしてがんについて知りたい人も変わらずいる。ずっと変わらない価値を持っているのがココロカラダ系なのかなとは思いますね。
池田:普遍的なテーマですよね。病気の他にも、生き方なんかもそうですよね。DRESSでは「子なし夫婦」をテーマにいくつか書いてもらったものがあるんですけど、「子なし夫婦」っていうワードでも流入してくる人が多くて。
藤田:結婚が幸せの形ではないかもしれないし、はあちゅうさんの件で事実婚も話題になったし、それこそ女性も当たり前のように働いているから、ひと昔前の女性が男性に養ってもらう価値観も違うな、となってきていますからね。子なしという選択を選んで、どんなふうに生きているのか、結婚しないでどう生きていくのか、いろんな人の声は聞いてみたいなと思います。
池田:そうなんですよね。たとえば、「周りはみんな結婚している。30歳になるのに結婚していないの私だけじゃん」って焦っている人はSNS上にも結構いますけど、そういう人にもし届けば、「こういう生き方があるんだ」「焦って苦しい思いをしなくてもいいんだ」と思ってもらえるんじゃないかなって。
■私たちのロールモデルは?これからの生き方とは?
▲共通点も多い2人。盛り上がる話題も多く、終始笑いが絶えない
藤田:アリシーにもDRESSにもコンセプトに“自分らしく生きる”というワードが入っているんですけど、これって答えがないですよね。自分らしさって何? どういうことをコンテンツにしたら、自分らしさって届くんだろう、と思っていて。
池田さんはご自身の恋愛談をはじめ、相撲やプロレスなど趣味をコンテンツで発信している印象があって、その池田さんの好きなことを発信するスタンスが、自分らしい生き方のひとつのロールモデルを読者に与えているのかなと思ったんですけど、そのあたりどうですか?
池田:「“自分らしい”とは、人と比べないこと」というのは伝えたいですね。こういう生き方もありますよと例を提示して、世の中にある固定観念みたいなものにとらわれないで自分の頭で考えてくださいというところを意識しています。こういう考え方をしましょうっていう押し付けはしないっていうのはあるかも。
藤田:なるほど。アリシーはトレンドは知っておきたいけど、必ずしも追う必要はなくて、自分の好きなものが見つかるといいよねっていうスタンスです。ちなみに私の場合、フリーランスになると不安なことが増えるから、同じような働き方や選択をしている人にすがりたくなるし、その中から目標とする女性を見つけてなぞりたくはなるけど、結局具体的なロールモデルがいなくて。
以前キャリアアドバイザーの方とお話したときに聞いたのですが、私たちの世代はロールモデル不在の世代なんですって。だから自分がどうやって生きていくかを自分で決めていかなきゃいけない。自分が次世代のなりたい自分になれるようにやっていかなきゃいけないと言われたんですよね。
池田:私もロールモデルは特になくて。DRESSを中心とする、仕事の場で出会った人から学んだことがたくさんあるから、いいなと思うところを部分的に取り入れて、ちょっとでも素敵な大人に近づいていきたいと思っています。素敵な人が周りに多いんですよね、ありがたいことに。自分の軸を持って仕事をしている人とたくさん出会えたのは、DRESSをやっていて良かったし、個人的に得しているところだな、と大変ありがたい思いです。
藤田:私も確かにアリシーを通じて関わった人たちに刺激を受けることは多いですね。
池田:その人たちとのコミュニケーションでもらったものってたくさんあると思うんですよ。それって私たちにとって、とても大きな財産ですよね。
藤田:そこから自分らしさや理想の大人に近づいていくみたいな。なりたい自分は、たくさんの他者とのコミュニケーションの中で発見していくものなのかもしれませんね。
(ふくだりょうこ+アリシー編集部)