腹筋はやみくもに鍛えてもダメ!
毎日腹筋をしているのに、シュワちゃんや海猿・伊藤英明のようなバキバキの腹筋にならない……。日々のトレーニングが報われず心が折れかけている人も多いのではないだろうか。実は、腹筋はやみくもに鍛えても目に見えて効果を実感することは難しい。
というのも、腹筋は体幹を動かす強靭な筋肉。私たちが日頃生活する中で、意識せずとも使い続けている筋肉だ。呼吸さえも腹筋の働きなしには成立せず、立つ、体を前に倒す、後ろにそらす、ひねるなどあらゆる動作に働く。つまり、もとより非常に鍛えられた筋肉というわけだ。ゆえに、その筋肉をさらに鍛えるというのは難しい。例えるなら、太っている人がダイエットで体重を落とすのと、ただでさえスリムな人がさらに体重を落とすのでは難易度が全く異なるのと同じ理屈だ。
そして実は腹筋は、目に見えないだけで既に6つか8つに割れている可能性もある。では、なぜ表層的にはそう見えないのか?答えは、「脂肪」だ。筋肉のまわりにある内臓脂肪や皮下脂肪のせいで、筋肉の輪郭が現れないのだ。もし、シックスバックを求めるなら、脂肪を落とすことも忘れずに。
なぜ下腹部は鍛えにくいの?
腹筋の中でも、とりわけ下腹部は鍛えるのが難しい。その理由を寺田さんはこう指摘する。
「呼吸の仕方に問題があり、横隔膜や骨盤底筋群が正しく機能していない可能性があります。例えばリブフレアなどが考えられます」(寺田さん。以下同)
「リブフレア」ってなに?
リブフレアとは、「リブ=肋骨」が「フレア=flare,朝顔型に広がる」こと。肋骨が開いていると何が問題かとえいば、息を吐く時に肋骨を下に引く腹横筋(腹筋の深層にある筋)が機能していない点にある。そして、肋骨に付着する内腹斜筋(腹筋を構成する筋)も同様に機能不全に陥った状態を意味する。
「肋骨の角度は70°〜90°が正常。100°以上に開いていて肋骨が浮き上がって見える人は要注意。逆に60°と狭い人は猫背が疑われます」(寺田さん。以下同)
さらに、肋骨が開いているということは横隔膜は常に緊張状態だ。正常であれば息を吐く時横隔膜は弛緩するが、それができない。結果的に呼吸が浅くなり、姿勢は歪む。正しい姿勢でトレーニングを行わなければ狙った筋肉は鍛えられず、効果は半減する。そればかりか、姿勢が歪むと体に余計な負担がかかり怪我や不調のもととなるのは想像に易い。さらに、間違った呼吸は自律神経の乱れを引き起こすことすらあるという
ぽっこりお腹の原因は下がった内臓かも
呼吸の際、横隔膜に連動する骨盤底筋群も「ぽっこりお腹」に無関係ではない。骨盤底筋とは骨盤の底にある筋。骨盤は器のような形をしており、底が空洞になっている。その空洞内ある臓器をハンモックのように覆い、支えていているのが骨盤底筋だ。
正常ならば、息を吸う時に横隔膜と連動して骨盤底筋は下がり、吐く時は上がる。この時、横隔膜と骨盤底筋が上と下からしっかり蓋をしてお腹に圧をかける(腹腔内圧を高める)ことで体幹は安定して姿勢を維持することができ、四肢は機能を果たすことができる。しかし、横隔膜と骨盤底筋群の向きが違っていた場合、うまく蓋ができないので腹腔内圧は低下して体幹は不安定になり、それを補おうとして体のあちこちに余計な負担がかかる。
「呼吸はすべての基礎」と寺田さんが強調するように、呼吸が乱れていると正しい姿勢が保てずパフォーマンスが低下して筋トレ効果も半減。それだけではなく、体の歪みや不調、最悪怪我の原因にもなるのだ。
また、骨盤底筋が低下すれば、ハンモックで支えている内臓は下に大きく垂れ下がる。骨盤は前が空いているので内臓は前面に押し出され、下腹が出るというメカニズムだ。
しかしこの「骨盤底筋」は非常に意識しにくい筋肉。素人ではどこに力を入れたらいいのかわからず、効果的なトレーニング法も多くない。ゆえに、下腹部を鍛えるのは難しいというわけだ。
まずは腹筋の種類を知ろう
4つの筋肉で構成
「腹筋」と私たちが普段ひとくくりにしている筋は、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の4つから構成される。
それぞれの筋肉の役割
1.腹直筋
「腹筋」と同義語の部分。体の前の部分にある縦長の筋。背中を前方に丸めて上体を前方に曲げる(体幹屈曲)筋。
2.外腹斜筋
体の側面で最も表層にある筋。背中を横に曲げる動きや、反対側にひねる動きの立役者。腹直筋同様、体幹屈曲にも働く。
3.内腹斜筋
外腹斜筋の深部にある筋。外腹斜筋や副王金と内臓を収める腹壁を形成する。外腹斜筋とともに、体を横に曲る、上体をひねる動きで大活躍。腹直筋、外腹斜筋とともに体幹を固定する働きもある。
4.腹横筋
内腹斜筋に覆われ、側服では一番深層にある筋。呼吸における、息を吐く際の主役の筋肉。腹腔の内部を圧迫し、お腹を凹ませる。
部位別トレーニングで下腹部を引き締めよう
ぽっこり下腹部を解消するには、各部位を意識したトレーニングが効果的だ。寺田さんに紹介していただこう。
腹直筋上部に効くトレーニング
<シットアップの行い方>
1.仰向けになり、両膝を90°程度に曲げる。両手は胸の前でクロスする
2.ゆっくり上体を起こす
3.背骨を1つずつ床につけるイメージで、ゆっくり床に上体を下ろす
4.2、3を繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
動作はゆっくり行う方が、筋への刺激が強くなるので効果的
<クランチの行い方>
1.仰向けになり、両膝を上げる。股関節、膝関節がそれぞれ90度になる位置でキープ。手を頭の後ろで組む
2.肘を膝に近づけるイメージで、息を吐きながら上体を丸めていく
3.息を吸いながら上体を元の位置に戻す
4.2、3を繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
動作はゆっくり行う方が、筋への刺激が強くなるので効果的
<リバースクランチの行い方>
1.ベンチに仰向けになる。耳の横付近でベンチを掴む。股関節、膝関節がそれぞれ90度になる位置で両膝を上げてキープ
2.後転するようなイメージで、お尻を上げる
3.ゆっくり下ろす
4.お尻がベンチについたら、再び上げる
5.2〜4を繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
•お尻をベンチに下ろす際、背骨が一つ一つ床面につくようなイメージでゆっくり下ろすと腹筋に効果的
•2の際、太ももが胸に近づいてしまうと腹筋への効き目は半減。上げた時、太ももと胸は離した状態でトレーニングを行うことが大事
「腹直筋下部」に効くトレーニング
<シザースの行い方>
1.ベンチに仰向けになる。耳の横付近でベンチを掴む
2.足をベンチに対して垂直に上げる
3.片足を残し、もう片方の足をゆっくりと下ろしてベンチに近づける
4.足を元の位置に戻す
5.逆の足をゆっくりと下ろしてベンチに近づける
6.足を元の位置に戻す
7.慣れてきたら、足を交互に上げ下げする
<筋トレ、ここがポイント!>
足を下ろす際に、腰がベンチから浮くと腹筋に力が入らず筋トレ効果は低減。腰痛を引き起こすリスクもあるので、ベンチに腰をしっかりつけ腹筋を使うことを意識する
<レッグレイズの行い方>
1.ベンチに仰向けになる。耳の横付近でベンチを掴む
2.両足を上げる
3.両足を揃えてゆっくり下げる
4.2、3を繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
シザース同様、足を下ろす際に、腰がベンチから浮くと腰痛にもつながるので注意。
<ハンギングレッグレイズの行い方>
1.バーにぶら下がる
2.足を伸ばした状態のまま、両足を上に高く持ち上げる
3.両足を下ろす
4.2、3を繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
•強度が足りない、もっと鍛えたいという場合は、3の際にゆっくりと時間をかけて下ろすと腹直筋下部への刺激が高まり効果的
•足を振り下ろした反動で足を上げてしまうとトレーニング効果が低下するので注意
腹斜筋に効くトレーニング
<ツイストクランチの行い方>
1.仰向けになり、両膝を上げる。股関節、膝関節がそれぞれ90度になる位置でキープ。手を頭の後ろで組む
2.右の肘を左の膝に近づけるように上体を持ち上げる
3.左の肘を右の膝に近づけるように上体を持ち上げる
4.2、3を繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
動作はゆっくりと正確なフォームで行い、筋の刺激を高める
<ウインドシールドワイパーの行い方>
バーにぶら下がる
足を伸ばした状態のまま、両足を上に高く持ち上げる
2の体勢をキープしたまま、側面に両足を倒して体幹をひねる
反対側に足を倒して体幹をひねる
車のワイパーのような動きを繰り返す
<ウインドシールドワイパー(初級編)の行い方>
1.仰向けになり、両膝を90度に上げる。腕は体の横に開く。両肩は必ず床につける
2.1の体勢をキープしたまま、肩が浮かないギリギリのポイントまで膝を側面に倒して体幹をひねる
3.反対も同様に行い、左右繰り返す
<筋トレ、ここがポイント!>
強度が足りない場合は、両膝を伸ばした上体で行うと腹斜筋への刺激がより高まる
効果をより高めるコツは?
トレーニング中、寺田さんが繰り返し強調したのが「効かせたい筋肉を意識すること」だ。
「MMC(mind muscle connection:マインドマッスルコネクション)という鍛えたい筋肉に意識を集中させることで、筋繊維が活性化するという説があります。どのトレーニングにおいても有効だと考えています」
ただ、その「意識する」ということが素人にとっては難しい。「鍛えたい筋の走行について理解すれば意識しやすくなります」。わずかな知識の差が、トレーニングに違いを生むようだ。
今年の夏こそはバキバキに割れた腹筋で
今すぐ自宅でできるメニューから、ジムで道具を使ってハードに追い込むメニューまで完全網羅してご紹介した。厳しいトレーニングの先に手に入れた割れた腹でプールサイドや砂浜を歩く時、周囲からの憧憬と羨望の眼差しはこの上ない快感だろう。この夏一番の達成感をお約束しよう。
Text by Naoko Takeda