全身性エリテマトーデスは圧倒的に女性に多く見られ、特に20〜40代に集中します。本見出しでは、女性ホルモンの影響やX染色体上の遺伝的要因など、性差に関わる発症リスクについて探ります。
監修医師：
桃原 茂樹（草薙整形外科リウマチクリニック）
【学歴】
慶應義塾大学 医学部卒
博士（医学）（慶應義塾大学）
米国Rush University Medical Center, Department of Biochemistry
日本・ヨーロッパ間リウマチ外科交流プログラム
【職歴】
1984年 慶應義塾大学医学部研修医（整形外科学）
1991年 慶應義塾大学医学部助手（整形外科学）
1993年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター助手
1997年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター講師
2005年 東京女子医科大学附属青山病院助教授
2008年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター教授
2008年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター副所長
2016年 慶應義塾大学先進運動器疾患治療学講座特任教授
2025年 医療法人社団 博恵会理事長
【現在の学会・社会活動】
日本整形外科学会 専門医
日本整形外科学会 リウマチ認定医
日本リウマチ学会 専門医・指導医・評議員
日本リウマチ外科学会 評議員
日本リウマチ学会 理事
全身性エリテマトーデスが女性に多い理由
全身性エリテマトーデスは、男女比がおよそ1：9と女性に多く、とくに生殖可能年齢の女性に発症するケースが目立ちます。この傾向は、女性ホルモンや遺伝的背景が自己免疫疾患の発症に深く関与していることを示唆しています。
女性ホルモンと自己免疫疾患の関係
エストロゲンをはじめとする女性ホルモンは、免疫系に複雑な影響を及ぼします。エストロゲンは免疫反応を活性化させる作用があり、自己免疫反応を強めることで全身性エリテマトーデスの発症リスクを高めると考えられています。具体的には、B細胞の活性化を促進し、抗体産生、とくに自己抗体の増加に寄与することが知られています。
さらに、月経周期、妊娠、出産などのホルモン変動期に症状が悪化することがあり、このこともホルモンと病態の関連性を示す重要なエビデンスです。妊娠中は免疫系が胎児を受け入れるために変化することから、全身性エリテマトーデスの症状が変動しやすく、医師による慎重な管理が求められます。
X染色体上の遺伝子と発症リスク
女性に全身性エリテマトーデスが多いもう一つの理由として、X染色体上の免疫関連遺伝子の関与が指摘されています。女性はX染色体を2本持つため、この上に存在する免疫関連遺伝子の異常や発現量の違いが、自己免疫反応を誘発する可能性があります。
また、X染色体の不活化（ライオニゼーション）機構の異常も関係していることが報告されています。通常、女性では2本のX染色体のうち1本が不活化され、遺伝子の過剰発現を防ぎます。しかし、この不活化機構に異常があると、一部の免疫関連遺伝子が過剰に発現し、自己抗体の産生や炎症反応を増強して全身性エリテマトーデスの発症に寄与することが考えられます。
こうしたホルモンと遺伝の複合的な影響により、女性は全身性エリテマトーデスの発症リスクが男性よりも高くなるといわれています。
まとめ
全身性エリテマトーデスは、自己免疫機能の異常により引き起こされる膠原病の一つで、厚生労働省により難病指定されている慢性疾患です。特に女性に多く見られ、倦怠感をはじめとする多様な症状により患者さんの生活に大きな影響を与えます。現在では生物学的製剤の登場により治療選択肢が拡大し、適切な治療により症状のコントロールが可能になってきています。患者さん一人ひとりの病態に応じた個別化医療の推進により、今後さらなる治療成績の向上が期待されます。
参考文献
[厚生労働省難病情報センター 全身性エリテマトーデス]
[日本リウマチ学会 全身性エリテマトーデス診療ガイドライン]
