ふらっと吸い寄せられるように赤提灯をくぐると、カウンターだけの店に、ぶっきらぼうなおやっさん。だけど、その声のトーンと、さりげない一皿の味付けに、なんだか妙に安心してしまう。
大阪・布施の片隅で、今日も誰かが「ちょっと一杯」をきっかけに、深くておもしろい夜へと誘われていく。ちょいのみ、なんて言ってるけど。たぶんここは、一軒で完結してしまう場所だ。
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ちょっと、のつもりが。
布施駅から少し歩いた先、ネオンの光がまばらになる路地裏に、その店はぽつんと光っていた。

「ちょいのみ」――赤提灯が、夜の闇にぼやっと浮かぶ。のれんをくぐると、すぐにカウンター。席は少なく、間隔も近い。常連の笑い声と、ガタンと置かれたジョッキの音が混じり合う中に、店主・孝太郎さんがいる。

無愛想に見えて、その実、抜群に人懐っこい。ちょっと黙ってるだけで、お客の様子をそっと見ているのだ。「一人ですか? じゃあ、まず厚揚げいっときます?」
厚揚げが、ちょっとすごい。
この店の厚揚げは、ちょっと違う。注文が入ってから、豆腐を揚げる。衣はカリッと、噛めば中はふわっとクリーミー。その上に、店特製の出汁醤油がひとまわし。

ビールを流し込むと、口の中にじんわりと余韻が残る。たった一皿で、胃袋も気持ちも、するりとこの店に馴染んでいく。
「ちょいのみ」なんて看板だけど、この一品でもう腰が落ちてしまう。
