義母の嫌味を聞き流す日々に限界を感じながらも、夫に相談しても取り合ってもらえなかった麻衣。心の支えを失った彼女の中で、義母への違和感が次第に拒否感へと変わっていく──。
募る違和感と、報われない相談
昨晩はよく眠れなかった。リビングから漏れ聞こえた、義母の私への不満。その強い言葉と最近のイヤミな言動が何度もフラッシュバックし、私が寝付くことを許さなかった。
最近の義母のイヤミな言動から、違和感を抱いてはいたけれど、それは義父との死別の反動で、衝動的なものと思っていた。でも、昨晩の不満を言う様子を聞くと、どこか言い慣れているようにも感じてしまった。
「おはよう」
「あっ、おはようございます」
この日は前日のこともあって、終始義母に対してぎこちない態度になっていた。そしてそのせいか、家事がいつもより手際が悪くなってしまい、結果として、通常運転の義母にこれまで以上に嫌味を言われることとなった。
その日の夜。私は義母に対する悶々とした気持ちに整理がつかずにいた。そこで私は就寝前の寝室で、夫の直哉に義母について聞いてみた。
「直哉。あのさ、聞きたいことがあるんだけど……お義母さんって、どんな人?」
「どんな人?んー基本、穏やかなイメージだけど。どうかしたの?」
私は言いづらさを感じつつ、最近の義母への違和感を夫に率直に話してみた。
「その、最近お義母さん、当たりが強いっていうか、嫌味っぽい気がして。直哉、心当たりあるかな、と思って……」
「そうなんだ。まぁ、不機嫌な時は嫌味っぽくなったりはしてたかもだけど……麻衣が気遣い過ぎなんじゃない?」
「えっ?でも……」
「気疲れしてそう感じたりとかもあると思うよ。そんな真面目におふくろに取り合わなくても大丈夫だから。ね?」
「……うん」
勇気を出して話した私の悩みは、夫に簡単にあしらわれ、不完全燃焼のまま夜に置いてかれてしまった。
翌日以降も義母の嫌味な言動は続き、しかも、その表現は日に日に過激になっていった。以前までであれば少し意地悪な言い方とも捉えられていた嫌味は、明らかな攻撃的な意図を感じさせる表現に変化していた。
「こんなこともできないの?親御さんに習ってこなかったのかしら」
「お惣菜?……子どもたち、可哀想」
「同居して生活も楽になると思ったけど……これじゃ、どっちが楽だったか分からないわね」
日々義母から浴びせられる嫌味。私は傷つきを感じつつも、夫の「真面目に取り合わなくていい」という言葉もあって、その嫌味を必死に受け流そうと努めた。なんとかやり過ごす日々の中、嫌味を吐くだけ吐いて悠々と過ごす義母の姿に、私は次第に憤りを覚え始めていた。
料理での“和解”の予感
私の中でも気持ちの変化が起き始めていた頃。私は義母から料理の手解きを受けていた。これまでも私が料理を振る舞っていたけれど、義母の口には合ってなかったようで、いわゆる“おふくろの味”を教えるとのことだった。
嫌味で上からな態度は依然変わらず、気になりはするものの、義母から私を誘ってくれたのは初めてのことで、このことを皮切りに良い関係性を築ければ、と密かに期待していた。
料理が完成し、二人で味見をする。確かに私の作るものとはまた違う、深みのある美味しさがあった。義母との関係はどうあれ、料理の勉強ができたことや一緒に作業できたことは、ここ最近で一番嬉しかった。
「美味しいです。また別の料理も、ぜひ教えてください」
気分が高揚していたのか、私は興奮気味に義母にそう言った。
「あら、そう?良かった。じゃあ、また教えるわね」
義母は控えめながら自慢げな表情を見せてはそう答えた。

