認知症の症状は、中核症状と行動・心理症状に大きく分けられ、中核症状はすべての認知症の方に共通して現れる可能性があります。代表的な中核症状である記憶障害は、単なる物忘れとは明確に区別される特徴を持ち、近時記憶が特に障害されます。また、見当識障害は時間、場所、人に関する認識が困難になる症状で、まず時間の見当識から障害され、次に場所、終末期に人の順で進行します。ここでは、これらの中核症状の詳細な特徴と進行パターンについて解説します。
監修医師：
伊藤 たえ（医師）
浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。
認知症の中核症状について
認知症の症状は、中核症状と行動・心理症状（BPSD）に大きく分けられます。中核症状は認知症の根本的な症状であり、すべての認知症の方に共通して現れる可能性があります。
記憶障害の詳細な特徴
認知症の代表的な中核症状である記憶障害は、単なる物忘れとは明確に区別される特徴を持っています。健常な加齢による物忘れが「何かを思い出すきっかけがあれば思い出せる」のに対し、認知症による記憶障害は「記憶そのものが失われている」点が大きな違いです。
特に顕著なのは、近時記憶の障害です。数分前から数時間前の出来事を覚えていない、同じことを繰り返し質問する、新しい情報を学習することができないといった症状が現れます。一方で、遠隔記憶（昔の思い出）は比較的保たれることが多く、幼少期や青年期の記憶は鮮明に覚えていることがあります。
また、記憶の種類によっても影響の程度が異なります。エピソード記憶（体験した出来事の記憶）は早期から障害されますが、手続き記憶（身体で覚えた動作の記憶）は比較的長期間保たれることが知られています。このため、自転車の乗り方や楽器の演奏などは、認知症が進行してもある程度まで維持されることがあります。
見当識障害の進行パターン
見当識障害は、時間、場所、人に関する認識が困難になる症状です。この障害は一定のパターンで進行することが知られており、まず時間の見当識から障害され、次に場所、終末に人の順で進行していきます。
時間の見当識障害では、今が何年、何月、何日、何曜日かがわからなくなります。初期段階では日付や曜日の混乱から始まり、進行すると季節や年代の認識も困難になります。また、一日の時間の流れがわからなくなり、朝なのか夜なのかの区別もつかなくなることがあります。
場所の見当識障害では、自分がどこにいるかがわからなくなります。慣れ親しんだ自宅でも迷うようになる、外出先から帰れなくなる、病院や施設で自分の部屋がわからなくなるといった症状が現れます。この症状は、徘徊行動の原因となることも多く、安全面での配慮が重要となります。
人の見当識障害は、比較的後期に現れる症状で、家族や友人の顔や名前がわからなくなります。身近な配偶者やお子さんでさえ認識できなくなることもあり、ご家族にとって大変辛い症状の一つです。
まとめ
認知症は誰にでも起こり得る疾患ですが、予兆の早期発見、適切な予防策の実践、そして理解に基づく対応により、その影響を軽減することが可能です。記憶や言語、行動の変化に注意を払い、運動や栄養、社会参加を通じた予防に取り組むことが重要です。また、認知症の方の言語パターンや表現を理解し、共感的なコミュニケーションを心がけることで、よりよい生活の質を維持できるでしょう。
参考文献
厚生労働省 – 認知症施策
国立長寿医療研究センター – 認知症情報ポータル
日本神経学会 認知症疾患診療ガイドライン2017
