変形性膝関節症は、治療をせずに放置するとどんどん症状が進行していきます。症状が進むにつれ、治療法も変わっていき、最終的には手術が必要になることも。重症度別の治療法について、増本整形外科クリニックの増本先生に教えてもらいました。

監修医師:
増本 項(増本整形外科クリニック)
1985年慶應義塾大学医学部卒業。元・慶應義塾大学病院スポーツクリニック講師。元・日本女子体育大学スポーツ医学助教授。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会スポーツドクター、日本整形外科学会スポーツ認定医、アメリカスポーツ医学会会員、日本臨床スポーツ医学会会員。
編集部
変形性膝関節症のKL分類のステージと、自覚症状で診察する「初期」「中期」「末期」は対応しているのですか?
増本先生
一般に、グレード1~2が初期、3が進行期、4が末期と対応しているとされています。しかし自覚症状の出現には個人差がありますから、KL分類のステージと自覚症状が必ずしも一致するわけではありません。KL分類はあくまでもレントゲン画像上でのステージ分類であり、臨床上、重症度を分類するものではないことに注意が必要です。
編集部
そうなると、どのようにして重症度を見分けるのですか?
増本先生
画像診断によるKL分類も参考の一つにしますが、それだけでなくWOMACといって、各症状のスコアリングも重要視します。WOMACとは痛みや機能障害などの臨床症状を患者さん自身が点数化したものです。治療法を決めるときにはKL分類やWOMACの結果などを掛け合わせ、総合的に判断することが必要です。
編集部
重症度別の治療法について教えてください。
増本先生
まず初期(グレード1)では保存療法を行います。消炎鎮痛薬やヒアルロン酸注射で痛みなどの症状を軽減するほか、運動療法を行い、膝関節の可動域を維持します。また、PRP療法やAPS療法などの再生医療も、膝軟骨が完全にすり減る前の初期や中期(グレード2・3)に行うことが推奨されています。変形が進行していないうちにPRP療法やAPS療法を行うことで炎症の改善が期待でき、症状が軽減されたり、膝に水が溜まりにくくなったりします。
編集部
保存療法で効果が期待できない場合は、どのような治療を行うのですか?
増本先生
一般的には手術を検討します。手術には主に骨切り術と人工関節置換術があり、膝関節の状態や症状、患者さんの年齢などを考慮して決定します。
編集部
それぞれどのような手術ですか?
増本先生
骨切り術とは軟骨がすり減らずに残っている部分に体重の負荷がかかるよう、骨の一部分を切ってO脚やX脚の変形を矯正する手術のことです。人工関節置換術とは、傷んだ関節を人工のインプラントに置換する手術のことです。どちらにもメリット・デメリットはありますが、一般的には年齢が比較的若くて骨の変形が少ない場合には骨切り術、そうでない場合には人工関節置換術を行います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
増本先生
手術はあくまでも最終手段。一度手術をしたら後戻りができないということを覚えておいていただきたいと思います。「痛みをなんとかしたい」といってすぐ手術に飛びつくのではなく、まずはいろいろな保存療法にチャレンジすることが重要です。2023年版のガイドラインでは、推奨度1(強く勧める)とされるものは運動療法、消炎鎮痛薬、日常的な教育プログラムの3つです。これらのなかでも特に大事なのは理学療法士による運動指導。理学療法士によるしっかりとしたマンツーマンの運動指導は、変形性膝関節症の治療や進行予防においてとても重要です。よく「リハビリをやっています」と言っても、実は患部に電気を当てているだけという方も見受けられます。変形性膝関節症の治療を受ける際には、必ず質の良い理学療法士が在籍している医療機関で、マンツーマンの運動指導が受けられるかどうかを確認することをおすすめします。
※この記事はMedical DOCにて<【最終手段】膝の痛みで手術が必要な人とはどんな人? 重症度別に治療法を医師が解説>と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。
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