ヒグマ出没激増、警察官や市職員の目前でシカが食べられる…「銃を持たないハンター」の地元で異常事態

ヒグマ出没激増、警察官や市職員の目前でシカが食べられる…「銃を持たないハンター」の地元で異常事態

●スマホから市職員の切迫した声が響いた

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そう語る池上さんだが、彼自身はいま銃を所持していない。現場に向かうのも、丸腰のままだ。10月下旬のある日、筆者が、息をつく間もなく現場から現場へ車を走らせる池上さんに密着すると、異常事態の実相が見えてきた。

この日、郊外の工場から「クマらしき動物が出た」との目撃情報が届いた。過去にもヒグマが出没したことがあるといい、敷地内には監視カメラが設置されている。

駆けつけた池上さんは関係者の詰める事務所でカメラ映像を視聴、コマ送り再生される動画を繰り返し確認し、「おそらくシカだろう」との見立てを述べた。野生動物はそれぞれ走り方や体形に特徴があり、不鮮明な映像でも注意深く見れば特定できるという。

念のため敷地内の別の場所に残されていたという糞も観察。改めて「シカ」と判断し、関係者らの謝辞を背に現場を後にした。スマートフォンが鳴ったのは、そのわずか数分後。国道の路肩に車を停めてスピーカー通話のボタンを押すと、小さなスマホから市職員の切迫した声が響いた。

「出ました。市役所の裏です。来ていただけますか」

アクセルを踏み、5分ほどで市庁舎裏手の河川敷へ。パトカー2台が停まる現場に市職員と警察官、あわせて7〜8人の姿があった。目撃されたヒグマは、前日に関係者らの前でシカを食べていた個体と同じクマと推測された。

先に引いた担当部長のコメントに登場していた若グマだ。シカの食べ残しを土に埋めて「土饅頭」を作ったというそのクマは、市職員らの「追い払い」によりいったん山のほうへ去っていき、その隙にシカの残渣が取り除かれた。餌を失った若グマは市内を移動し、市庁舎付近に出没することになったらしい。

●本気を出せば「金属の檻」も壊されてしまう

「おいおい、パトカーそんなとこ走ったら駄目だ」

現場付近を見回っていた池上さんが慌てて助言する。パトカーはその時、クマが姿を隠しやすい水路を挟んで市庁舎と反対側にある土手の上を徐行していた。もしも水路の近くにクマがいた場合、パトカーが街のほうへクマを追い立てることになりかねない位置取り。

裁判では警察・公安委と対立している池上さんだが、現場の警察官たちとは協力関係にあり、一方の警察官もベテランハンターの助言には真摯に耳を傾ける。この時はヒグマ発見に至らず、池上さんは対応時の注意事項などを伝えて現場を離れた。

続いて向かったのは、目撃情報をもとに金属製の「箱罠」を設置した現場。繰り返しになるが、砂川のハンターは現在、銃を撃つことができない。そこで活用されるのが、市で5つほど稼働している箱罠だ。内部に仕掛けた餌でヒグマを誘い、クマが内部のトラップ(踏み板など)に触れるとシャッターが下りてクマを閉じ込める仕組み。

今年はこの日までに13頭が捕獲されたといい、この数字はおそらく過去最高と思われる。10年間現場を見てきた担当部長が「2ケタ」を経験するのは初めてだ。

複数箇所の見回りの結果、いずれの箱罠にもヒグマの姿はなかった(この翌日、14頭目が捕獲されることになる)。2カ所目を訪ねた際、同行した筆者に「裏へ回って檻の天井よく見てごらん」と池上さん。訝りながら眼を向けると、箱罠の上部に金属の柵が欠けている部分があった。金属棒が曲げられている箇所もある。

「ヒグマが罠を壊して、上から餌だけ取っていったんだ。本当に賢いよ」

ヒグマが本気を出せば、丈夫な金属の檻も壊されてしまう──。捕獲後のクマを見回る活動の危険なことは言わずもがなだが、鳥獣対策隊員はほぼボランティアでその任務にあたっている。しかも池上さんらは砂川市だけに頼られているわけではない。隣接する歌志内市や上砂川町からも出動の打診があり、そちらへも可能な限り対応する。

今年は上砂川町でも数年ぶりに箱罠の利用が決まり、この前日に町内の1カ所へ罠が設置されたばかりだった。案内されて現場へ向かうと、罠の正面に北海道の『許可証』が掲示されており、そのすぐ下にやはり北海道知事による罠猟の『従事者証』。従事者の氏名は「池上治男」とある。

池上さんから銃を取り上げ、裁判でもその正当性を主張している北海道庁が、現場のヒグマ対応についてはその人の力を借りなくてはならないというわけだ。

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