ヒグマ出没激増、警察官や市職員の目前でシカが食べられる…「銃を持たないハンター」の地元で異常事態

ヒグマ出没激増、警察官や市職員の目前でシカが食べられる…「銃を持たないハンター」の地元で異常事態

●窓から庭に目をやると「巨大な黒い塊」が見えた

上砂川町内ではこの2日前、民家の庭に複数のヒグマが侵入する事態が起きていた。現場は町内の高台にある一軒家。出迎えてくれた住人の女性(87)によると、その地には3代前から短くとも100年以上居を構えているが、「クマが来たのは初めて」という。

2日前の夕刻、居間の窓から庭に目をやると巨大な黒い塊が見えた。すぐにクマとわかり、室内から夫と一緒に大声を出して追い払おうとしたが、相手は驚く様子もなく、車を揺らしたり庭を荒らしたりし続けたという。

幸い誰にもケガはなく、ヒグマは数分間ほどで山のほうへ立ち去ったが、翌日の午後には同じ庭に親子連れとみられる3頭が現われた。ここに及んで女性は町に通報。町の連絡で池上さんが臨場し、対応を助言することとなる。

「ラジオつけてるね。これはいいよ。人がいるってわかるから」

女性は庭にラジカセを据え、大音量でラジオ放送を流すクマ対策をしていた。今回とくに大きな被害はなかったが、畑で育てるトウモロコシの収穫期と重なっていたら「いっぱい食われたかもしれない」。

ほかに餌になる物がないことから3度目の訪問を受ける可能性は低いが、それにしてもなぜクマたちはこの100年あまりの慣行を破って人家へ顔を出すことになったのか。「山に餌がないんでしょうか」と筆者が問いを向けると、女性は言下に否定した。

「そんなことない。今年はクルミずいぶん落ちてるよ」

そう、山に食べ物がないわけではない。それでも人里へ下りてくる個体がいるということは、やはり池上さんが言うように「絶対数が増え過ぎた」ためだろうか。

もはやいうまでもなく、クマの被害は砂川だけで増えているわけではない。今夏は全国各地で目撃情報や被害報告が絶えず、連日テレビニュースや新聞紙面をにぎわせている。筆者が池上さんに密着した日も熟練ハンターのスマホには道内外のメディアからひっきりなしに電話が着信していた。

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●ヒグマは発砲の体制を整えるまで待ってくれない

今年9月、鳥獣保護法の一部が改正され、ヒグマなど有害鳥獣の駆除にあたって市街地での発砲が解禁された。それまで発砲の根拠としていた警察官職務執行法に拠らずとも、自治体の判断で「緊急銃猟」をおこなうことができるという。

10月下旬には札幌市が北海道で初めて緊急銃猟に踏み切り、地元猟友会のハンターが2頭のヒグマを駆除したことが伝わった。とはいえ、多くの自治体ではまだ運用に慎重で、全国に目を広げてもこの時点までに実施に踏み切っていた市町村は2ケタに届かない。撃たないハンターが活動する砂川市も例外ではなく、担当部長は「ここでは現実的ではない」と話す。

「まず地形。砂川の市街地は平地で、バックストップ(弾止め)になる斜面などがほとんどありません。地面をバックストップにした『撃ち下ろし』も難しい。それと、要件確認に時間がかかる。ヒグマはこちらが発砲の体制を整えるまで待ってはくれません。

人の思いとは関係なく自由にあちこち歩き回る。要件を確認し終えるころにはクマがどこかへいなくなってしまいますよ。市民のみなさんは、やはり『撃ってほしい』とおっしゃいますが、当面は箱罠での捕獲を続けるしかない状況です」

クマなどが「人の生活圏に侵入し」「緊急性があり」「銃猟以外の対応が困難な状況で」「住民の安全が確保されている」──。この4要件をすべて満たさない限り、緊急銃猟による発砲はできないことになっている。いざヒグマが出た現場でこれらを一つ一つ確認していると、その間にクマがどこかへ立ち去ってしまう可能性があるわけだ。

実際、道内初のケースとなった札幌の現場では、最初に銃猟を決断した日には関係者らがクマを見失っており、発砲に至ったのはその翌日だった。

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