ヒグマ出没激増、警察官や市職員の目前でシカが食べられる…「銃を持たないハンター」の地元で異常事態

ヒグマ出没激増、警察官や市職員の目前でシカが食べられる…「銃を持たないハンター」の地元で異常事態

●「撃てば処罰されるかも」という懸念を拭えない

砂川で緊急銃猟が困難な事情は、もう1つある。ほかでもない、池上さんら地元のハンターたちが発砲を自粛し続けているためだ。猟銃所持許可裁判で池上さんの主張が認められる結果を得られない限り、ハンターとしては「撃てば処罰されるかも」という懸念を拭えないという。

改正鳥獣法施行直前の8月下旬、会員約5700人を擁する北海道猟友会は道内全支部に通知を出し、各市町村から緊急銃猟の依頼があっても必ずしも応じる必要はないとの考えを示した。改正法では駆除の現場で事故が発生した際のハンターの責任の範囲が明確になっておらず、このままでは第二の池上さん事件を招くおそれがあるという。

猟友会の堀江篤会長は通知時の取材に「簡単に『出動せよ』とは言えない」と訴えていた。

「事故が起きたときの責任体制が明確でない限り、むやみに『撃ってくれ』とは言えません。国民の生命、財産を守るのが、猟を趣味としている民間のハンターでいいんですか、ということです。もちろん協力したい気持ちはありますが、本来国民の安全について責任を負うべきは、国であり市町村であり警察でしょう。彼らがすべて責任を持つと明言してくれない中、何かあったときにボランティアで引き金を引いた者が罰せられることになったらたまりません。ハンターには『断る勇気』も必要だと思います」

環境省の緊急銃猟ガイドラインは、銃猟時の留意事項を解説する箇所で繰り返し「跳弾」のおそれや「バックストップ」確保の必要性を説いている。

いずれも池上さんの裁判で重要なポイントとなった要素で、とくに二審の札幌高裁は不自然といえるほどに跳弾の可能性を強調して、池上さんの発砲行為を否定的に評価していた。この判決がガイドラインに与えた影響が察せられるところだが、その後の状況を見る限りでは、逆のベクトルもありそうな趣きだ。

全国各地でクマの被害に歯止めがかからない中、上述のようなハンターたちの不信感を払拭させるためには、今後の司法判断が重要な役割を担うことになるのではないか──。

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●「早く手を打たないと間に合わなくなりますよ」

銃所持許可訴訟で池上さんの代理人をつとめる中村憲昭弁護士によると、池上さんの上告・上告受理申し立ては昨年10月下旬、上告理由書の提出は同12月下旬、裁判所から理由書受け取りの連絡があったのは年が明けた本年1月のことだった。

それから10カ月経ってもなお、最高裁の判断は示されておらず、ここまで時間が費やされたうえで「理由がない」として上告が退けられる展開は考えにくい。中村弁護士は裁判所の真っ当な判断に期待を寄せる。

「緊急銃猟のガイドラインには、池上さんの裁判を意識した部分があると思います。とくに、跳弾の可能性を過度に重視していますから。最高裁で改めて池上さんの主張が認められれば、今の緊急銃猟制度の見直しに繋げることもできるのでは」

池上さん自身、二審判決が最高裁で覆ることを望んでいるのは言うまでもない。ただすでに述べたように、長く現場を見てきたハンターにとって市街地での銃猟解禁はあくまで対症療法。人里へ下りてくるヒグマの数をゼロに近づけないことには、抜本的な解決には至らないという。

「ヒグマを撃った経験を持つハンターは多くないんです。いくら制度を整えても、そう簡単に緊急銃猟なんてできるもんじゃない。そもそも市街地で対応している時点で『後手』でしょう。それよりもヒグマの絶対数を調整して、山全体を普通の状態に戻さないと。

山で生きられずに里へ下りてきたヒグマは、人間が攻撃してこないとわかると安心して歩き回るようになり、多産になる。そうなると次のシーズンはもっとひどくなる。早く手を打たないと間に合わなくなりますよ」

この取材の翌週、札幌中心部でクマが目撃されたとの情報が伝わった。地元報道などによると、現場はJR札幌駅から直線でわずか4キロほどの河川敷。池上さんが言うように、公共機関や商業施設がひしめく都心の大通公園にヒグマが出没する未来も現実味を帯びてきたようだ。

熟練ハンターが銃を手放さざるを得なくなってから、すでに7年あまり。異常事態の街では今も丸腰の対応が続く。例年であれば雪が積もり始める11月下旬には目撃情報が絶えるはずだが、今期がその例に漏れない年になるかどうかは定かでない。

※池上さん側が上告に踏み切ったのは、今からちょうど1年さかのぼる2024年10月下旬のことだった https://www.bengo4.com/c_1017/n_18095/

※北海道猟友会は道内全支部に通知を出し、各市町村から緊急銃猟の依頼があっても必ずしも応じる必要はないとの考えを示した
http://www.hokkaido-hunter.org/houkaisei20250829.pdf

※環境省の緊急銃猟ガイドライン
https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort15/doc/guideline.pdf

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