祖母の介護をめぐり、母と叔母の対立は深刻化。板挟みになった美咲は、家族を繋ごうと奔走するが、従姉妹の彩花とも衝突してしまう。関係修復の糸口を探すも、次第に行き場を失っていく。
すれ違いの狭間で見つけた、小さな安らぎ
母と叔母のみならず、長年仲の良かった従姉妹の彩花との間にも遂に亀裂が入ってしまった私は、完全に行き詰まりを感じていた。家族にも従姉妹にも気を張り詰め、迫る祖母の最期にも胸を痛める私にとって、唯一の安らぎは恋人の俊介との日常のやりとりだった。
「そっかぁ。板挟みだけでも辛かったのに、従姉妹さんにも誤解されちゃったんだね」
「……うん。それぞれが手一杯で余裕がなくて。仕方ないとは思うんだけど……」
「まぁね〜。ただ、せめてお互いにもう少し、耳を傾けられると良いよね」
穏やかで思いやりに溢れた彼と惹かれ合って、私たちは長い付き合いになっていた。そして、祖母の病気発覚の直前、私は彼からプロポーズを受け、婚約をしていた。
本来であれば、そこから両家への挨拶を済ませて正式に婚姻する予定だった。けれど、祖母の件を聞いた彼が気を使って「落ち着いてからにしよう」と言ってくれた。そのため、彼のことを家族や祖母、叔母家族も知っていたが、婚約についてはまだ家族にしか伝えていなかった。
祖母の笑顔に宿った、ひとときの救い
仕事がひと段落し、久しぶりに家族で休みが合った週末。私たち家族は祖母の家へと向かった。
「婚約の話、おばあちゃんに言ったら喜んでくれるかな……」
父が運転する車に揺られる中、私はそんな期待を密かに抱いた。
祖母の家に着く。祖母の衰弱具合はより深刻になっていた。以前来た時は動けていたのに、ベットで上体を起こすのがやっとのようだ。明るく振る舞う気遣いを見せても、辛そうなのが透けて見えた。
「ミサちゃん、久しぶりだねぇ。……お仕事、忙しいのかい?」
途切れ途切れな祖母の力ない声に、私は胸を締め付けられ、思わず涙が溢れそうになった。けれど、気丈に振る舞う祖母の前では泣くまいとグッと涙を堪え、婚約について話した。
「おばあちゃん、俊介くん覚えてる?」
「……ミサちゃんの、恋人かい?」
「うん。実はね、プロポーズしてくれてね、婚約したんだ」
そう言うと、祖母は既にシワだらけの顔をさらにクシャっとさせて、満面の笑みを浮かべた。
「そ〜かい、良かったねぇ」
祖母の笑顔と祝福の言葉に、堪えていた涙が堰を切ったように溢れ出た。でも、流す涙は弱っていく祖母への切なさではなく、辛そうな祖母を一時でも笑顔にできた喜びと安心からだったように感じた。
その日はそれ以降、祖母の調子が上がっていった。食事にも積極的で、家族での会話も弾んだ。最近しかめっ面が多かった母にも笑顔が窺えた。叔母家族との不仲で家庭内さえ緊張が続いていた中で、久しぶりに穏やかな空気が流れていた。

