ADHDは単独で現れることもあれば、うつ病や不安障害、他の発達障害などと併存する場合もあります。これらの状態が重なると、より複雑な支援が必要になります。本章では、ADHDと共に見られる精神的・発達的な併存症について解説します。

監修医師:
三浦 暁彦(医師)
2018年富山大学医学部医学科卒業。慶應大学病院、国立病院機構久里浜医療センター、国立国際医療研究センター国府台病院等で研鑽を積む。自身が不登校、うつ病となった経験から、誰でも気軽にかかれる医療を目指して2023年6月に「おおかみこころのクリニック」を開院。医師偏在等の精神科医療の問題点を克服するため、遠隔診療の研究にも従事し、2025年9月にAIを用いたオンライン診療所「ココフィー」をリリース。著書「脱うつのトリセツ」
【資格】
日本精神神経学会 専門医
ADHDと併存しやすい状態
ADHDの方は、うつ病や不安障害などの精神的な問題を併せ持つことがあり、これらを理解することが大切です。
二次的な精神的問題
ADHDの症状により、日常生活で困難や失敗を重ねることで、二次的な精神的問題が生じることがあります。多いのがうつ病で、慢性的な困りごとや周囲からの理解不足により、自己肯定感が低下し、気分の落ち込みが続きます。
不安障害も併存しやすい状態の一つです。ADHDの方は予測不能な状況や変化に対して強い不安を感じやすく、これが慢性化することで全般性不安障害やパニック障害を発症することがあります。特に、職場での失敗やコミュニケーションの困難により、社会不安障害を発症するケースも少なくありません。
睡眠障害も多くのADHDの方が抱える問題です。頭の中が常に活動的で、就寝時になっても考えを止めることができず、入眠困難や中途覚醒を起こします。睡眠不足はADHDの症状を悪化させるため、悪循環に陥りやすくなります。
摂食障害や物質使用障害(アルコールや薬物依存)のリスクも高いとされています。衝動性により過食に走ったりストレスで食欲を失ったり、ストレスを和らげるためにアルコールや薬物に頼ってしまうケースがあります。
他の発達障害との関係
ADHDは他の発達障害と併存することも珍しくありません。自閉スペクトラム症(ASD)との併存では、社会的コミュニケーションの困難さに加えて、注意力や衝動性の問題も抱えることになります。この場合、社会的な場面での困難がより複雑になり、包括的な支援が必要です。
ASDの特徴である感覚過敏とADHDの注意散漫が組み合わさると、環境への適応がさらに困難になります。また、ASDの変化への抵抗とADHDの衝動性が相反することで、内的な葛藤が生じることもあります。
限局性学習症(SLD)との併存も多く見られます。この場合、注意力の問題と特定の学習スキルの困難が重なり、学習面での支援がより複雑になります。例えば、読字の困難がある方がADHDも併存している場合、集中力の持続困難により読書がさらに困難になります。
チック症との併存もあり、ADHDの多動性とチックの不随意運動が組み合わさることで、日常生活への影響が大きくなることがあります。また、ADHDの治療薬がチックを悪化させる可能性があるため、治療法の選択にも注意が必要です。
まとめ
発達障害は決して珍しいものではなく、適切な理解と支援があれば、その方の持つ能力を十分に発揮することができます。大人になってから発達障害に気づいた場合でも、遅すぎることはありません。自分自身の特性を理解し、適切な環境調整や支援を受けることで、より良い生活を送ることが可能です。周囲の理解と協力も得ながら、一人ひとりが自分らしく生きられる社会の実現が重要です。
参考文献
厚生労働省 発達障害の理解のために
厚生労働省 発達障害の特性(代表例)
日本発達障害学会

