義姉の絵里は、明るく頼れる存在として沙耶たち夫婦を支えてくれた。しかし妊娠・出産を機に、沙耶たち家族の領域に深く関わるように。最初は感謝していた沙耶も、やがて違和感を覚え始めるのだった。
ありがた迷惑な“親切”
娘の花が生まれてしばらくが経った。私たち夫婦は慣れない子育てに苦戦しつつも、尊い日々を送っていた。
そんなある日、義姉の絵里さんから1通のメッセージが届いた。
「花ちゃんが生まれてからもうすぐで100日経つよね?お食い初めの準備はしてる?」
日々の子育てに忙殺されて忘れていたが、花が生まれてもうじき100日。妊娠中、夫とも相談していた、お食い初めを行う時期だった。義姉へ返信を送ろうとすると、再びメッセージが送られてきた。内容はホテルや旅館のリンクだった。
「お食い初めできる近場のホテル・旅館だよ〜。参考までに!」
義姉の仕事の早さと気遣いに頭が下がる反面、家族のことに足を踏み入れられているようにも感じていた。私の中での率直な気持ちとして、義姉のこの心遣いは、ありがた迷惑に感じていた。
「リストアップありがとうございます!こっちでも探してみますね」
義姉への感謝と抵抗感の間で揺れた末に打ち込んだ、返信のメッセージ。送信後のスマホの画面には、浮かない顔をした私が反射していた。
“主役”がすり替わる瞬間
お食い初め当日。結局、義姉のリストアップしてくれた旅館で執り行うこととなった。私の家族と義家族に参加してもらい、和やかに会は進行した。慣れない環境でみんなに注目されてか、娘が泣き出す姿もあったけど、そんな場面も含めて娘の成長や無事を実感していた。
お食い初めの儀式が終わると、会食に移った。みんな娘を微笑ましく眺めながら、会食を楽しんでいた。私も儀式がひと段落し、肩の荷を下ろして食事をとっていた。すると、会食開始して早々に、義姉が娘の元へやってきた。
「花ちゃん、よく頑張ったね〜。偉かったよ〜」
義姉はそう声をかけて、娘の頭を撫でた。特別変なことをしているわけではなかったけれど、義姉に対して私が抱いている違和感や抵抗感のせいか、義姉の一挙手一投足に過敏になっていた。
「ありがとうございます。絵里さん、もうお食事は終わったんですか?」
「なんか胸が一杯になっちゃったのか、あまり入らなくて。まぁ、まだ時間はあるみたいだし、ゆっくり頂こうと思って」
「あぁ、そうでしたか……」
それからというものの、義姉は一向に自席に戻らなかった。そして、みんなの食事がひと段落し始めた頃に「花ちゃん、抱っこしてもいい?」と訊いてきた。私は抵抗感がありつつも断る理由も見つけられなかったため了承した。すると、義姉は娘を義両親の元へと連れていき、義両親に抱っこさせて、その様子を撮影し出した。
「初孫かわいいね〜」
そんな声を義両親にかけながら撮影をする義姉。義両親や私の両親は満足げだったけれど、私の中ではモヤモヤが憤りへと変わっていくのを感じていた。娘をあたかも自分の子どものように扱う義姉に対して、抵抗感を強めざるを得なかった。

