あべのハルカス美術館『密やかな美 小村雪岱のすべて』江戸情緒の香るモダンな世界観に注目

《雪兎》昭和17(1942)年頃【後期展示】《雪兎》昭和17(1942)年頃 ※没後の刷り 木版、紙 埼玉県立近代美術館蔵

版画や本の装幀、挿絵など、主に商業美術で活躍してきた雪岱は、美術史の中でほとんど取り上げられる機会がありませんでした。ところが、雪岱の作品は時代に消費されることなく、多くの人の心を動かし続け、近年になって再び注目を集めています。

《春告鳥》昭和7(1932)年 絹本着色 個人蔵【前期展示】《春告鳥》昭和7(1932)年 絹本着色 個人蔵(埼玉県立近代美術館寄託)

本展は、大阪では初めての大規模な小村雪岱展となり、雪岱の代表作を網羅して紹介。文豪の泉鏡花や日本画家の松岡映丘など、雪岱を取り巻く人々との交流と協働にも光を当て、その人となりを探ります。

見どころ①大阪初!雪岱の全貌に迫る大規模展

《青柳》大正13(1924)年頃 絹本着色【前期展示】《青柳》大正13(1924)年頃 絹本着色 埼玉県立近代美術館蔵

小村雪岱は、大正期から昭和初期にかけて活動した美術家です。泉鏡花の著作の装幀や、発足間も無い資生堂意匠部でのデザインなど、主に商業美術の世界で活躍し、「意匠の天才」とも呼ばれています。

《河庄》昭和10(1935)年頃 絹本着色【通期展示】《河庄》昭和10(1935)年頃 絹本着色 福富太郎コレクション資料室蔵

雪岱の真骨頂といえば、「昭和の春信」とも称された端麗な美人画。鈴木春信は、江戸時代に可憐な美人画で人気を博した画家です。雪岱の作品は、春信の画風に通じるレトロな江戸情緒を宿しつつ、東京モダンな感覚も取り入れて時代に共鳴するものでした。

大阪では初めての大規模な雪岱展となる本展では、彼の代表作を網羅的に紹介。雪岱の世界観に没入できる、貴重な機会となりそうです。

見どころ②「雪岱」の名付け親、泉鏡花と協働した装幀

雪岱を単なる「画家」ではなく「美術家」と呼ぶのは、絵画のみならず多方面で活躍したからです。日本画や書籍の装幀、挿絵や映画の美術考証、舞台装置に至るまで、幅広い分野で第一線を走りました。

中でも泉鏡花の『日本橋』をはじめとする装幀は、彼の代表作と言えるでしょう。

雪岱は東京美術学校に在学していた頃、友人のすすめで鏡花の小説を読むようになりました。大きな影響を受けたらしく、卒業制作にも鏡花からのインスピレーションが活きているとか。

泉鏡花『日本橋』 装幀:小村雪岱【後期展示】泉鏡花『日本橋』 装幀:小村雪岱 大正3(1914)年 千章館 (有)田中屋蔵

その後、雪岱はなんと鏡花本人と出会い、親交を深め、「雪岱」の雅号までもらうことになります。『日本橋』は、鏡花の愛読者だった雪岱が初めて鏡花本の装幀を手がけた作品。本作を機に、雪岱は装幀家としても大きな一歩を踏み出しました。

なお、鏡花の著作は装幀の美しさでも知られ、「鏡花本」と呼ばれて愛されています。明治期の鏡花本を支えた画家・鏑木清方も雪岱を高く評価し、息が合った2人の仕事を讃えました。

大好きな作家の本の装幀を手がけることになり、雪岱はどんな心持ちだったのでしょうか? 本展では作品を鑑賞しながら、雪岱の心の動きも想像してみてはいかがでしょうか。

配信元: イロハニアート

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