認知症の発症には、さまざまな要因が関与していることが研究により明らかになっています。運動不足や偏った食生活、睡眠不足、喫煙、過度の飲酒といった生活習慣が発症リスクを高めることが知られています。また、社会的孤立やストレス、うつ状態といった心理社会的要因も深く関与しており、これらの要因は相互に影響し合いながら複合的にリスクを高めます。これらの要因を理解することで、予防策を講じたり早期発見につなげたりすることが可能になります。

監修医師:
伊藤 たえ(医師)
浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。
認知症になりやすい方の特徴
認知症の発症には、さまざまな要因が関与していることが研究により明らかになっています。これらの要因を理解することで、予防策を講じたり、早期発見につなげたりすることが可能になります。
生活習慣に関連する要因
認知症の発症リスクには、日常の生活習慣が大きく影響することが知られています。特に重要なのは、運動不足、偏った食生活、睡眠不足、喫煙、過度の飲酒といった要因です。
運動不足は、脳の血流を低下させ、神経細胞の機能低下を招きます。定期的な有酸素運動は、脳血流を改善し、神経成長因子の分泌を促進することで、認知症の予防効果があることが報告されています。週に150分以上の中強度の運動を継続することが推奨されており、散歩、水泳、サイクリングなどの活動が効果的です。
食生活の面では、高脂肪食、高塩分食、糖分の過剰摂取が認知症のリスクを高めることが示されています。一方で、魚類、野菜、果物を豊富に含む地中海式食事パターンは、認知症の予防効果があることが多くの研究で示されています。
睡眠の質と認知症の関係も重要で、慢性的な睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群は、認知機能の低下や認知症リスクに関わる可能性があります。質の良い睡眠を7~8時間程度確保することが、脳の健康維持に重要です。
喫煙は血管を傷害し、脳血流を低下させることで認知症のリスクを高めます。また、過度の飲酒も脳細胞に直接的な損傷を与え、認知機能の低下を招きます。これらの習慣の改善は、認知症予防において極めて重要です。
社会的・心理的要因
認知症の発症には、社会的孤立、ストレス、うつ状態といった心理社会的要因も深く関与しています。これらの要因は相互に影響し合い、複合的に認知症のリスクを高めることがあります。
社会的孤立は、認知刺激の不足や精神的ストレスの増加を通じて、認知症のリスクを高めることが示されています。人との交流が少ない環境では、言語機能や記憶機能を使う機会が減少し、「使わない機能は衰える」という原理により、認知機能の低下が促進されます。
慢性的なストレスは、コルチゾールなどのストレスホルモンの分泌を増加させ、海馬などの記憶に関わる脳領域に損傷を与えます。特に、介護ストレス、経済的困窮、家族関係の問題などの持続的なストレスは、認知症の発症リスクを有意に高めることが報告されています。
うつ状態と認知症の関係は複雑で、うつ状態が認知症の前駆症状である場合もあれば、うつ状態そのものが認知症のリスクファクターとなる場合もあります。特に、高齢期のうつ状態は認知症の発症リスクを2~3倍高めるとされており、適切な診断と治療が重要です。
まとめ
認知症は誰にでも起こり得る疾患ですが、予兆の早期発見、適切な予防策の実践、そして理解に基づく対応により、その影響を軽減することが可能です。記憶や言語、行動の変化に注意を払い、運動や栄養、社会参加を通じた予防に取り組むことが重要です。また、認知症の方の言語パターンや表現を理解し、共感的なコミュニケーションを心がけることで、よりよい生活の質を維持できるでしょう。
参考文献
厚生労働省 – 認知症施策
国立長寿医療研究センター – 認知症情報ポータル
日本神経学会 認知症疾患診療ガイドライン2017

