●町(行政)の不作為は国家賠償の対象となるか
町民の被害との関係で最も責任が問われる可能性があるのは、積丹町(行政)の対応です。具体的には、「情報共有不足と代替措置をとらずに放置したこと」について、国家賠償法第1条1項に基づく責任が問われる可能性があります。
国家賠償法第1条1項が定める国家賠償責任が認められるには、「公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えたとき」という要件を満たす必要があります。
町(行政)は、町民の生命・身体の安全を守る義務を負っています。この義務の一環として、住民の生命や身体に危険が迫っている状況の下では、住民の安全を守るために行動を起こす「作為義務」が発生します。
ただし、基本的に、行政にはどんな対策を取るかについてある程度の自由(裁量)が認められています。もっとも、この「裁量」には限界があると考えられています。
この裁量の考え方には大きく2つあり、詳しくは専門的過ぎるため割愛しますが、被害の発生の危険性が高くなるにしたがって裁量の幅が狭まるという考え方(福岡地判昭和53年11月14日など)や、不作為が許される限度を逸脱して著しく合理性を欠く場合には違法となるという考え方(東京高裁昭和52年11月17日(子どもが野犬に噛まれて死亡した事例)など)があります。
本件のケースで仮にクマによる被害が出た場合、このような説の詳細はともかく、共通する要素をざっくりと整理するのであれば、以下のようになると考えられます。
1)クマによる人の生命・身体への重大な危険が生じており、しかも1カ月も経っている。
2)この1カ月の間に、町民や議会に情報提供することは容易であるし、代替の駆除体制を検討、整備するといった行動をとることも可能といえる。
3)このような措置により被害を防ぐことができる可能性は高いといえる。
したがって、町が情報の共有をせず、代替措置もとらなかったことは、「違法な不作為」と判断される可能性があると考えられます。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

