健康診断の便潜血検査で“陰性”の結果が出ると、多くの人が「とりあえず安心」と感じるでしょう。しかし、じつは大腸ポリープの多くは便潜血検査では見つかりにくく、陰性でも見逃されていることが少なくありません。今回は、大腸ポリープが見逃される理由やリスクなどについて、「横浜あおば胃腸肛門内視鏡クリニック」の安西先生に解説していただきました。
監修医師：
安西 紘幸（横浜あおば胃腸肛門内視鏡クリニック）
東北大学医学部卒業、東京大学大学院医学系研究科外科学専攻博士課程修了。国立病院機構 災害医療センターや日立総合病院、埼玉県立がんセンター、関東労災病院などで経験を積み、2025年3月、横浜市青葉区にある「こどもの国安西クリニック」の分院として「横浜あおば胃腸肛門内視鏡クリニック」を開院、院長となる。
便潜血検査でがんを見つけられるのか
編集部
まず、便潜血検査について教えてください。
安西先生
大腸がん検診で広くおこなわれている便潜血検査は、便に混じったわずかな血液を調べる検査です。この検査の目的は、進行した大腸がんを見落とさないことにあります。しかし、便潜血検査だけでは限界があり、早期の大腸がんや、がんになる前のポリープは見つけにくいことが知られています。そのため、「便潜血検査で陰性だったから安心」というわけではありません。大腸がんを早期のうちに見つけて治療につなげるためには、内視鏡検査が非常に重要です。内視鏡なら、早期の病変やポリープを直接観察して、その場で切除することも可能です。つまり、便潜血検査は「進行がんを見逃さないための最低限の検査」、内視鏡検査は「早期発見・予防まで可能にする検査」という位置づけになります。
編集部
なぜ、便潜血検査は大腸がんの早期発見につながらないのでしょうか？
安西先生
大腸ポリープの多くは出血を伴わないため、大腸がんと同様に便潜血検査では陰性になることが多い傾向にあります。その結果、「異常なし」と判断されてしまい、大腸ポリープが放置されるケースも少なくありません。
編集部
では、どういう症状があれば大腸ポリープを見つけられるのですか？
安西先生
大腸ポリープは、基本的に無症状です。出血や便通異常が出ることもありますが、それはかなり大きくなってからです。症状がないうちに検査を受けることが、ポリープの早期発見につながります。
編集部
早期発見できなかった大腸ポリープはどうなるのでしょうか？
安西先生
大腸ポリープは基本的に良性ですが、その中でも「腺腫」と呼ばれるタイプは、年単位で徐々にがん化する可能性があります。特に大きさが20mmを超えると、がん化のリスクが50％以上とも言われており、「前がん病変」と考えるべき存在です。また、たとえ良性であっても小さくても、切除した組織を顕微鏡で見てみると、がん細胞が紛れ込んでいることもあるので、基本的には大腸ポリープは切除した方がいいと考えられています。
大腸ポリープの原因･治療法
編集部
大腸ポリープができる原因はなんですか？
安西先生
大腸ポリープの主な原因は、食生活と遺伝の2つです。肉類や脂肪の多い食事、野菜や食物繊維の不足が関係しているとされています。また、家族に大腸ポリープや大腸がんのある人は、遺伝的なリスクもあるため、より注意が必要です。
編集部
大腸ポリープが見つかった場合、どのように治療するのですか？
安西先生
必要なスタッフやリカバリー設備が整い、日帰りでの切除術が認められている医療機関では、検査中に見つかったその場で切除できることがほとんどです。当院でも、ポリープを専用の輪のような器具（スネア）で切り取る「ポリペクトミー」という方法をおこなっています。切除後はその場で止血までしっかり確認するので、追加の処置が必要になることはほとんどありません。検査が終わった後は、リカバリールームで十分に鎮静剤の効果が切れるまで休んでから帰宅していただきます。日帰りといっても、ただの外来診察とは違い、検査から治療まで安全に完結できる体制を整っているため、安心して受けられます。
編集部
その場で切除できるのは、患者さんにとっても大きなメリットですね。
安西先生
そうですね。検査と同時に治療が完了すれば、入院の必要もなく体への負担も最小限で済みます。ただし、稀に大腸ポリープであっても、その数や大きさなどによっては「後日改めて切除」や「専門の医療機関に紹介」と判断されることもあります。ただ、基本的には検査当日に切除も終わるので、忙しい人でも安心だと思います。
