なぜ「ダッチアングル」を選んだ?BBCやNetflixに見る世界の「リアリティ演出」
NHKのカメラマンやスタッフの技術レベルは世界的にみても高く、その専門教育の内容も高度だといわれています。筆者は、この高度な教育と感性が、構図上の判断としてあえて画面を傾ける選択につながったのだと考えています。
現在、世界の先端ドキュメンタリー映像の世界、BBCやNetflixなどでは、映像のリアリティを持たせるため、意図的にカメラを手持ちで揺らしたり、わずかに傾けたりする手法が一般的になっています。
画面を傾けるダッチアングルは、確かに不安定さや緊張感を与える構図として知られますが、近年ではむしろリアリティや現場の空気を感じさせる技法として定着しつつあります。また、映像に変化や呼吸をもたらす効果をねらうこともできます。
NHKのスタッフも当然、世界の作品を日常的に研究しています。いまやドキュメンタリー映像の世界では「わずかに傾いた構図」がリアルでかっこいい演出と共通認識されているといってよいでしょう。その潮流を取り入れようとした結果、今回のような構図を選んだ可能性は十分にあります。
過去の「NHK首斬り学派」構図問題はなぜ起きた?海外メディアとの共通点
実はNHKの構図問題は過去にも議論があり「NHK首斬り学派」を思い出す方も多いのではないでしょうか。この「NHK首斬り学派」は、NHKの報道やドキュメンタリー映像で、文字どおり人物の頭や顎がフレームで切られている極端な近接構図を批判的に呼んだネット上での通称です。
ただし、この極端な近接構図もBBCやCNNなどの海外メディアでは、被写体との距離を近づけ、感情を直接的に伝える手法として非常に一般的です。特にスマートフォン視聴が主流のいま、顔を大きく見せる構図はむしろ自然でリアリティを感じやすい。いまや見慣れた構図になっています。
このように、世界的な報道やドキュメンタリー映像の潮流を積極的に導入するNHKの構図が否定的に捉えられた問題は、今回の件だけでなく、長年繰り返されてきたといっても差し支えありません。

