「政治的意図」ではない。表現の自由と報道倫理の境界線
ここでもう一度、純粋に構図の話に立ち返るなら、画面に傾きを持たせた構図=ダッチアングルは、不安定さや緊張感を与える構図でありながら、動感を与え、スピード感を強調する構図でもあることに注目すべきでしょう。
おそらく今回の問題は、筆者のような未熟なカメラマンが行うと単なる水平・垂直のズレというミスにみえる一方、BBCやNHKのような熟練の現場がやると意図的で洗練された映像表現になる。このギャップが視聴者に政治的な意図を感じさせる結果になったのだと思います。
傾いた構図から何を感じるかは、見る側の自由です。とはいえ、筆者は今回の問題について、既成の常識を意図的に破る映像表現とそれに対する社会の摩擦という観点に注目すべきだと考えています。筆者の考えとなりますが、傾けたのは意図的だとしても、それは映像をより豊かに見せようとする試みであり、政治的な意図があったとは思えません。
今回の問題は、発信する側はもちろん、それを受ける側も、表現の自由と報道倫理の境界線について、改めて考えるべき事象といえるでしょう。
(齋藤千歳)

