①『ふしぎなえ』—小人たちと錯覚の面白さを体験
安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店(1971年)
最初にご紹介するのは、3歳から小学校低学年のお子さんにおすすめの『ふしぎなえ』。
表紙の絵を眺めていると、レンガの壁を上る小人たちの姿に違和感を覚えるのではないでしょうか。平らな壁のはずなのに、階段のように見えてきます。
安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店(1971年)p.4, 5
家の中が描かれたページでは、なんと小人たちが逆さまになっています。絵本の上下を逆にすると、彼らがどのような動きをしているのか、より見えてくるはずです。家という見慣れた風景も、少し視点を変えるだけで、新しい発見に満ちていることを教えてくれます。
作者の安野光雅氏は、日本を代表する絵本作家で、世界各国で愛される名作を生み出しています。細やかな表現と鮮やかな色彩が特徴で、読者が絵をじっくり見て想像を膨らませるという、絵本の新たな魅力を示しました。
安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店(1971年)p.14, 15
『ふしぎなえ』は、「だまし絵の巨匠」と言われるエッシャーからインスピレーションを受けて誕生しました。目の錯覚を使った独自の表現で、読者を不思議な世界にいざないます。
上のページは、迷路をまっすぐ進んでいると思いきや、途中で上下が逆転してしまいます。
指で道をなぞったり、ページの半分を隠したりすると、どの地点から見え方が変わっているのか謎が解けるでしょう。
安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店(1971年)p.20, 21
蛇腹のカードが登場するページでは、カードが地面についている部分もあれば、トンネルのように小人が行き来している箇所もあります。眺めているうちに、カードが空中に浮かび上がるように見えるはず。常識にとらわれず、空間を自由に感じ取れる作品です。
『ふしぎなえ』には、文字が書かれていないため、集中して絵を眺めたり、「小人たちは何をしているのかな?」など、親子で会話を楽しんだりすることができます。
ページをめくりながら、絵本を逆さまにしたり、絵を半分隠してみたりと、お子さんが能動的に関わりたくなる本作。日常生活とは異なる見え方を通して、新しい発見や自由な発想につながっていくでしょう。
②『視覚ミステリーえほん』—視覚のトリックとその仕組みを楽しく発見
ウォルター・ウィック 写真と文/林田康一 訳『視覚ミステリーえほん』あすなろ書房(1999年)
次に取り上げるのは、小学校低学年から中学生を対象とした『視覚ミステリーえほん』。大人気『ミッケ!』シリーズを手がけるウォルター・ウィック氏の作品です。
『ミッケ!』シリーズでは、手作業で組み立てたセットや、作者自らが制作したドールハウスが登場し、細部まで作り込まれているのが魅力。さらに、光の当て方やカメラの角度を工夫し、見え方のトリックを活かした謎解きを盛り込むなど、視覚の面白さにもこだわっています。
ウォルター・ウィック 写真と文/林田康一 訳『視覚ミステリーえほん』あすなろ書房(1999年)p.6, 7
『視覚ミステリーえほん』では、ウィック氏が巧みに操る錯覚の表現とその仕組みを楽しく解説。まるで手品のように、ものの見え方が鮮やかに変化していきますよ。
たとえば、絵本の最初に登場する紙ねんど。形を押し付けられた部分は凹んでいますが、絵本を逆さまにしてみるとどうでしょう? なんと、くぼんでいたはずが、盛り上がって見えるのです。
ウォルター・ウィック 写真と文/林田康一 訳『視覚ミステリーえほん』あすなろ書房(1999年)p.12, 13
上の写真は、おもちゃが宙に浮かんでいるように思えますが、実は鏡を使ったトリックが使われています。一見すると合成した写真に思えるかもしれませんが、よく観察すると、鏡の上にどのように物が置かれているかが分かり、錯覚の仕組みが理解できるはずです。
ウォルター・ウィック 写真と文/林田康一 訳『視覚ミステリーえほん』あすなろ書房(1999年)p.26, 27
「色紙の階段」は、ウィック氏のテクニックを丁寧に解説しているページです。左右のページで異なるのは、色紙に隙間があるかどうか。少しでも間が空いていると、立体的には見えませんが、ぴったりくっつけると本物の階段のように感じられます。
しかし、いくら立体的に見えても、右側の階段は平面です。今度は、「なぜ平らだと認識できるのか」と一歩進んで考えると、目で捉えた情報をどのように受け取っているのか、より深く知るきっかけになります。
錯覚の仕組みを楽しく学びながら、トリックを見破れるかどうか、親子でチャレンジしてみてくださいね!
▼ウォルター・ウィック氏の「ミッケ!」をアートの視点で楽しむ記事はこちら

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