③『あかいふうせん』—シンプルな形を観察して広がる想像力
イエラ・マリ作『あかいふうせん』ほるぷ出版(1976年)
最後にご紹介するのは、2・3歳の小さなお子さんも楽しめる『あかいふうせん』。赤色の丸い形がページをめくるごとに変化し、「次はどうなるの?」とワクワクする展開の絵本です。
イエラ・マリ作『あかいふうせん』ほるぷ出版(1976年)p.6, 7
物語の始まりに登場するのは、子どもが膨らませているフーセンガム。
シンプルな線と形で描かれているため、読者の頭の中で、イメージが自然と広がっていくのが魅力です。「何歳くらいの子どもかな?」「ガムはどんな味かな?」など、親子でコミュニケーションを取ると、お子さんの想像力がさらに広がるでしょう。
イエラ・マリ作『あかいふうせん』ほるぷ出版(1976年)p.14, 15
物語が進むと、フーセンガムがリンゴになったり、ちょうちょになったりと、形が変わっていきます。ひとつの赤い丸だったはずが、まったく別のものに見えてくるのが、面白いポイントです。
また、文字がない絵本なので、単純な形から何かを連想したり、他のものに見立てたりして遊ぶこともできます。
イエラ・マリ作『あかいふうせん』ほるぷ出版(1976年)p.22, 23
作者のイエラ・マリ氏は、デザイナーとしても活躍した絵本作家で、その洗練された表現は高い評価を得ています。
シンプルさだけでなく、登場するモチーフにダイナミックさを与えているのが特徴で、まるでアニメーションのような、生き生きとした動きが見えてきます。
マリ氏は文字のない絵本を作り続け、生命の循環や形態の移り変わりを、ことばに頼らず絵で伝えてきました。親子で一緒にページをめくる時、お子さんがそれぞれのシーンをどのように観察したか、ぜひ耳を傾けてみてくださいね。
見る楽しさから広がる、豊かな感覚の世界
この記事では、視覚をテーマに、3冊の絵本をピックアップしてご紹介しました。目の錯覚やシンプルな形を観察して、見ることの楽しさに触れることができます。
お子さんと一緒に、絵をじっくり眺めたり、ページを逆さにしてみたりと、ぜひ色々な遊び方を試してください。五感を通して発見する喜びが、アートをより身近に感じ、感覚を豊かに育むきっかけになるでしょう。
※本記事の画像は、各出版社に許諾を得た上で、スキャンデータを作成して掲載しています。
《参考文献》
安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店、2025年(初版:1971年)
ウォルター・ウィック 写真と文/林田康一 訳『視覚ミステリーえほん』、あすなろ書房、2012年(初版:1999年)
イエラ・マリ作『あかいふうせん』ほるぷ出版、1987年(初版:1976年)
今井良朗編著『絵本とイラストレーション 見えることば、見えないことば』武蔵野美術大学出版局、2014年
絵本学会機関誌編集委員会『絵本BOOKEND 2018 通巻15号』絵本学会、2018年6月
《参考ウェブサイト》
板橋区立美術館「イエラ・マリ展 字のない絵本の世界」(最終確認:2025年10月23日)
