不倫相手が保育園の先生と判明し、夫は彼女を庇って彩乃を突き放した。夫は「君と別れる」と冷たく突き放し、彩乃は子どもたちのために葛藤する。
謝罪の言葉と冷たい本音
「バレる覚悟で浮気したから、いいよ。別に」
保育園に不倫を暴露しても構わないと開き直る夫。さらに子どもたちの存在により離婚にも消極的にならざるを得ず、私は心身ともに疲弊していた。「私が我慢すれば、みんな幸せでいられる……」そう思い込んで心を強く保とうとすればするほど、心の消耗に自覚的になって、長続きしないことを認めざるを得なかった。
その日の深夜。子どもの寝かしつけを終え、残りの家事をしにリビングへ戻ると夫がまだ起きていた。
「彩乃、話がある」
声をかけられ、私は渋々彼の方に向き直る。
「昨日の夜と、今朝も、突き放すようなこと言ってごめん。ついイライラして当たっちゃった」
突然の夫からの謝罪に驚きつつ、心は凪のままだった。
「彩乃には感謝してる。これまでの結婚生活も、子どもたちとの生活も彩乃がいたから楽しかった。……だけど正直、彩乃を昔のようには想えない」
謝罪した直後に吐かれる夫の本音。彼は言い方に問題があったように考えているようだけど、そんなことは重要じゃない。それに気づいていないことが、なんだか虚しかった。
「彩乃に対して情はあるし、彼女より家族を大切に思ってる。……だけど、自分でもどうしたらいいか分からないんだ」
家族や私を思う素振りをして、自分も可哀想だとアピールしているように見えた。私は静かに話を聞きながら、彼に冷たい視線を向けていた。けれど彼はそれにも気づかずに話を続けた。
「今すぐには解決できない。だけど必ず、自力で解決するから、待っててほしい」
彼は私を真っ直ぐに見て言い切った。けれど、その言葉への期待すら抱けないほど呆れ切っている私は、素っ気なく「……うん」とだけ返して残った洗い物を洗いにキッチンへと向かった。
子どもと過ごす時間に見つけた支え
その週の日曜。私は子どもたちを連れてプールへと向かった。夫は予定も知らせずに、朝早くからどこかへ消えていた。モヤつき荒む心も、子どもたちの存在が支えだった。はしゃぎ楽しむ姿をこの上なく愛おしく思いながら、「この子たちの幸せだけは絶対に守ってみせる」という決意を静かに燃やした。
その後、夕方頃には子どもたちを連れて帰宅するも夫は帰っていなかった。結局、戻ってきたのは19時過ぎ。何を言ってくるわけでもなく、ただ自分のことだけ淡々とこなしては、そそくさと寝室に向かっていった。会話のなくなった夫婦関係。これまで夫を含めて家族でいることにこだわってきた私の心境は、「このままでいいんだろうか」という疑問を持ち始めていた――。
翌朝。子どもたちの登園を準備していると、家を出る直前の夫が顔も向けずに一言呟いた。
「前、話したけど……言うなよ?」
冷たく吐き捨てられた一言には、「自分の都合の良いように事を進めたいから出しゃばるな」という夫の身勝手さが透けているようだった。不意に心を突いてきたその言葉に怒りと哀しみが込み上げて、私は涙を流しながら夫の背中に言葉をぶつけた。
「こんなにつらい思いしてるのにそこまで言う?私はあなたがどうにかするのを待つしかないけど、子ども達には恥かかせないようにしてよね」
思いの丈をぶつけると、私は夫を追い抜いて逃げるように子どもたちを保育園へ連れていった。
「ママ……なんでないてるの?」
拭っても止まらない涙を心配して声をかける娘。その姿に申し訳なさと不甲斐なさが込み上げる。
「……大丈夫!へーきへーき!」
無理に笑って、明るく誤魔化す。すると、何かを察したように娘が頬を膨らませて話す。
「ママをなかせるやつ、きらい!結がママをまもる!」
娘のその言葉が、辛い私の心を包み込んでくれると同時に、泣いている場合じゃないと鼓舞するきっかけになった気がして、いつの間にか涙も引っ込んでいた。

