認知症の方の言語パターンには、表面的な言葉以上に深い感情やメッセージが込められていることがあります。「どうしたらいいのかわからない」といった不安や混乱を表す表現は、認知機能の低下に対する困惑を示しており、共感的に受け止めることが重要です。また、論理的な説明や訂正よりも感情的な共感と受容が効果的であり、静かで落ち着いた環境での会話やアイコンタクトを保つことが、信頼関係の構築につながります。ここでは、効果的なコミュニケーションの工夫について詳しく解説します。

監修医師:
伊藤 たえ(医師)
浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。
言語パターンに込められた感情とコミュニケーション
認知症の方の言語パターンには、表面的な言葉以上に深い感情やメッセージが込められていることがあります。これらを理解することで、より効果的なコミュニケーションが可能になります。
不安や混乱を表す表現
認知症の方の言語パターンには、内面の不安や混乱が表れることが多くあります。「どうしたらいいのかわからない」「頭がぼんやりしている」「何だか変な感じがする」といった表現は、認知機能の低下に対する直接的な困惑を示しています。
これらの表現は、認知症の方が自分の状態を客観視し、変化を感じ取っていることを示しています。周囲の方は、これらの訴えを軽視せず、共感的に受け止めることが重要です。「そうですね、混乱されているのですね」「不安になるのは当然だと思います」といった共感的な反応が、安心感を提供します。
また、「みんなが私を見張っている」「何か悪いことが起こりそう」といった被害的な内容の言語パターンも見られます。これらは、記憶や判断力の低下により生じる不安や恐怖感を反映しており、否定するのではなく、安心できる環境を提供することが重要です。
「もう役に立たない」「邪魔者になった」といった自己否定的な表現は、認知症の方の自尊心の低下や絶望感を示しています。これらの発言に対しては、その方の価値や存在意義を肯定的に伝え、尊厳を保つ支援が必要です。
コミュニケーションの工夫
認知症の方の言語パターンに適切に対応するためには、コミュニケーションの技術が重要です。まず、相手の立場に立って理解しようとする姿勢が基本となります。論理的な説明や訂正よりも、感情的な共感と受容が効果的です。
言語パターンに対する対応では、「そうではありません」「それは違います」といった直接的な否定は避けるべきです。代わりに、「そう感じられるのですね」「心配になりますね」といった受容的な反応を示します。そのうえで、話題をほかの関心事に自然に誘導することが有効です。
また、認知症の方の言語パターンは、その方なりの現実を表現しているものとして理解することが重要です。現実の時間や場所とは異なっていても、その方にとっては真実の体験であり、それを尊重する態度が信頼関係の構築につながります。
コミュニケーションの環境も重要で、静かで落ち着いた環境、十分な時間の確保、アイコンタクトを保ちながらの会話などが、効果的なコミュニケーションを支援します。また、その方の好きな話題や昔の思い出など、ポジティブな内容の会話を心がけることも大切です。
まとめ
認知症は誰にでも起こり得る疾患ですが、予兆の早期発見、適切な予防策の実践、そして理解に基づく対応により、その影響を軽減することが可能です。記憶や言語、行動の変化に注意を払い、運動や栄養、社会参加を通じた予防に取り組むことが重要です。また、認知症の方の言語パターンや表現を理解し、共感的なコミュニケーションを心がけることで、よりよい生活の質を維持できるでしょう。
参考文献
厚生労働省 – 認知症施策
国立長寿医療研究センター – 認知症情報ポータル
日本神経学会 認知症疾患診療ガイドライン2017

