必須栄養食という考え方
筆者は抗加齢医学専門医でもあり、自身のアンチエイジングに真剣に取り組んでいます。その取り組みの中で「必須栄養食」という概念にたどり着きました。
要するに体内の代謝で合成されない栄養素を積極的に摂取して、それ以外は摂取を控えるという考え方です。
摂取すべき栄養素
・炭水化物:食物繊維(野菜、海藻など)
・脂質:オメガ3脂肪酸 (DHA,EPAなど)
・タンパク質:必須アミノ酸が十分に含まれる(アミノ酸スコアの高い)タンパク食
・ビタミン&微量ミネラル:食事での摂取に加え、サプリメントで必要最小量は確実に摂取
・抗酸化物質の食事、サプリメントで意識的に摂取
摂取を控えるべき栄養素
・炭水化物:糖質(デンプンの多い主食の米、麺、パンなど、お菓子や清涼飲料水などの糖)、要するに糖質制限
・脂質:トランス脂肪酸、飽和脂肪酸(動物性脂肪)
・ミネラル:ナトリウム(食塩)
上記を簡単にまとめると、糖質の過剰摂取は血糖上昇の原因となり、細胞内外でタンパク質の架橋(AGEs:人体のタンパク質を傷つけてしまい、老化の原因になる物質)が発生しやすくなり、細胞内外に蓄積します。
また食物繊維は大腸の機能を保つために必須と考えます。
脂質は特にオメガ3脂肪酸を積極的に摂取すべきであると考えます。避けるべきものは、トランス脂肪酸、飽和脂肪酸となります。タンパク質は体内で合成されない必須アミノ酸が十分に含まれる(アミノ酸スコアの高い)タンパク質を摂取します。ビタミン、ミネラルは不足がおこらないように十分摂取します。抗酸化物質も意識して摂取します。塩分はできる限り控えます。
詳細な説明は省略しますが、必須栄養素を確実に摂取するだけで、フリーラジカルの処理がスムーズになり、ミトコンドリアの異常が発生しにくくなり、酸化ストレスが低減し、抗酸化物質の保護作用も加わり、細胞膜や遺伝子へのダメージが少なくなり、老化を防ぐことができます。
個人的には細胞を構成する必須脂肪酸や必須アミノ酸の不足もエラーの発生の原因と考えており、また適切な細胞分裂や細胞分化を妨げる原因となると考えています。
以下、必須栄養食は老化を予防し、老化の一つとして発症するがんのリスクを低減させるという理論に基づいて解説します。
がんを予防する可能性の高い食べ物
野菜、海藻などの食物繊維
食物繊維は大腸の腸内細菌叢のバランスを保つために欠かせません。大腸がんの予防につながるだけでなく、その他の部位のがんやその他の病気の予防にも効果的であると考えられています。
また、ビタミン、ミネラル、抗酸化物質が多く含まれているものがあり、その意味からも積極的に摂取が勧められます。
ブロッコリースプラウトに含まれる抗酸化物質であるスルフォラファン、海藻に含まれる水溶性食物繊維であるフコイダンの抗がん作用も有名です。
オメガ3脂肪酸(DHA、EPAなど)
魚介類、特に青魚に多く含まれるとされるDHA、EPAの摂取は健全な細胞膜を保つために、確実に食物もしくはサプリメントから摂取しなければなりません。魚も苦手だし、サプリメントにも抵抗がある方は、亜麻仁油、えごま油がおすすめです。α-リノレン酸が多く含まれており、体内でDHA、EPAに変換されるので、代替になりえます。
オメガ3脂肪酸の十分な摂取は脳や血管の病気だけでなく、がんの予防にも効果的であると考えられています。
タンパク質
健全なタンパク質が合成されるには、決して体内で合成されることのない必須アミノ酸の十分な摂取が必要となります。必須アミノ酸を多く含む、肉、魚、豆、卵、乳製品の摂取を推奨します。腎機能障害がなければ、体重60kgであれば60g(体重1kgあたり1g)が運動をしない方の最小の目安です。運動をして筋肉をつけたい方は体重あたり2-4g摂取しても問題はないとされています。実際、たんぱく質摂取と運動による筋力の増加ががんの発生リスクを低減させたり、がん発症および治療後の予後を改善したりするという報告が多数あります。
ただし、運動量が多くないのにたんぱく質摂取が多すぎると悪影響がでる可能性はあると思います。
ビタミン、ミネラル
本来であれば上記で紹介した三大栄養素、すなわち十分な野菜、適量のくだものの摂取、魚介類の摂取、肉、魚、まめ、卵の摂取でビタミン、ミネラルは十分に摂取できるはずです。
ところが現代社会のいろいろな事情がそれを難しくすることがあります。食生活での摂取を心がけることは重要ですが、マルチビタミン、マルチミネラルなどのサプリメントで最小限度の量を確保しておくことは重要です。これらのサプリメントは決して過量の副作用を起こすことはありませんので、安心してください。
もちろん、一部のビタミンやミネラルの不足とがんのリスクは関連があるとされています。
抗酸化物質
詳細な説明は難しくなるので省略しますが、これまでにお薦めした食材を十分に摂取するとそもそも体内に備わっている抗酸化作用は最大限に発揮されます。さらに抗酸化物質を摂取した方がよいことの説明としては現代人の食べ残す部分にあると思います。黒ぶどうの種や皮、ピーナッツの薄皮にレスベラトロールという抗酸化物質が多く含まれていますが、たべずに捨ててしまいがちです。また、エビやカニなどの甲殻類の殻にはアスタキサンチンという抗酸化物質が多く含まれていますが、食べずに捨ててしまいます。
そういう意味では抗酸化物質を意識して、本来なら捨てている部分も工夫して食べてみたり、サプリメントで補充したりすることはがんの予防にも効果があるように思います。

