ギラン・バレー症候群は、体の免疫システムが誤って末梢神経を攻撃することで発症する急性の神経疾患です。多くの場合、感染症の回復後1〜3週間程度で症状が現れ、両側対称性の筋力低下や感覚障害が特徴的です。ここでは、発症のメカニズムや原因となる感染症、典型的な症状について詳しく解説します。

監修医師:
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)
鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。
ギラン・バレー症候群の基本的な特徴
体の免疫システムが誤って末梢神経を攻撃することで発症し、多くの場合、感染症から1〜3週間後に症状が現れます。
発症のメカニズムと免疫応答
ギラン・バレー症候群は、体の免疫システムが誤って自分自身の末梢神経を攻撃してしまうことで発症する急性の神経の炎症です。神経線維の周りを覆う膜(髄鞘)が主に障害されるタイプ(脱髄型)と、神経線維そのものが障害されるタイプ(軸索型)があります。
特に神経線維を覆う髄鞘(ミエリン)や神経細胞の膜に対して自己抗体が生じ、神経の伝導機能が障害されます。このような自己免疫反応により、脳や脊髄から筋肉への指令がうまく伝わらなくなり、筋力低下や感覚障害といった症状が現れるのです。神経が損傷される部位や程度によって、軸索型と脱髄型に分類され、それぞれ回復の速度や予後が異なることが知られています。
日本では脱髄型が多いとされていますが、軸索型の亜型も少なくありません。脱髄型では神経を包む髄鞘が主に障害されるのに対し、軸索型では神経線維そのものがダメージを受けるため、回復により長い時間を要する傾向があります。
原因となる感染症と誘因
ギラン・バレー症候群の発症に先行する感染症として代表的なのは、カンピロバクター・ジェジュニによる腸炎です。カンピロバクターの細胞壁に含まれる糖鎖構造が、ヒトの末梢神経の糖脂質と類似しているため、交差反応が起こりやすいとされています。
その他にも、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルス、マイコプラズマなどの感染が誘因となることがあります。一方で、原因となる病原体が不明の場合も多々あります。近年では、ワクチン接種後の発症も報告されていますが、発症率は低いとされています。
いずれの誘因においても、感染から発症までの期間は1〜3週間程度であり、この時期に免疫応答が活発化して自己抗体が産生されると考えられています。風邪のような症状や下痢などの消化器症状が治まった頃に、手足の力が入りにくくなるという経過をたどることが典型的です。
両側対称性の筋力低下
典型的には、足先やふくらはぎに力が入りにくくなることから始まります。階段の昇降が困難になる、つま先立ちができない、スリッパが脱げやすくなるといった日常動作の変化に気づく方が多くいます。症状は左右対称に現れることが一般的で、片側だけが急激に悪化するケースは稀です。
数時間から数日のうちに筋力低下は膝や股関節にまで及び、自力で立ち上がることや歩行が難しくなります。腱反射は初期から鈍くなったり、全く起こらなくなったりすることが多く、神経学的診察で確認される重要な所見となります。医師が膝や足首の腱を軽く叩いても、通常見られる反射が起こらないという特徴があります。
このように急速に進行する両側性の筋力低下は、他の神経疾患との鑑別において重要な手がかりとなります。脳卒中のように片側だけが急に麻痺するのではなく、左右対称に症状が広がっていく点が特徴的です。
感覚障害と異常感覚
筋力低下に先行または並行して、手足のしびれや感覚の鈍さを自覚する方がいます。多くは手袋や靴下を履いたような分布で生じ、末梢神経の障害を示唆します。触った感覚が鈍い、温度の違いがわかりにくいといった症状が代表的です。
痛みを伴う場合もあり、特に夜間や安静時に下肢や腰背部の疼痛が出現することがあります。この痛みは筋肉痛とは異なり、神経根の炎症によるものと考えられています。ズキズキとした痛みや、電気が走るような痛みと表現する方もいます。
感覚障害の程度は個人差が大きく、軽いしびれ程度にとどまる方もいれば、温度覚や触覚が著しく低下する方もいます。感覚障害が運動障害に比べて軽度であることが多いのも、ギラン・バレー症候群の特徴の一つです。
まとめ
ギラン・バレー症候群は、感染後に突然発症する自己免疫性の末梢神経疾患であり、両側性の筋力低下や感覚障害を主症状とします。下肢から始まり上肢、体幹、顔面、呼吸筋へと進行する特徴的なパターンを示し、早期の診断と治療が重要です。免疫グロブリン療法や血漿交換療法により多くの方は回復に向かいますが、回復には時間を要し、後遺症が残ることもあります。男性にやや多い傾向がありますが、性別を問わず発症する可能性があります。力が入りにくい、しびれが続くといった症状に気づいたら、速やかに神経内科を受診することが推奨されます。
参考文献
ギラン・バレー症候群について(厚生労働省)
ギラン・バレー症候群診療ガイドライン(日本神経学会)
神経医療研究センター – 神経筋疾患ポータルサイト(国立精神・神経医療研究センター)
ギラン・バレー症候群治療ガイドライン(日本神経治療学会)

