“仕事も人生の一部”「ワークライフインテグレーション」とは?
「ワークライフバランス(WLB)」という言葉が浸透して久しく、「仕事と私生活はきっちり分けるもの」という考え方が主流でした。しかし、リモートワークの普及や価値観の多様化により、その常識が変わりつつあります。今、注目されているのが「ワークライフインテグレーション(Work Life Integration)」という、仕事と私生活を対立するものと捉えず、「どちらも人生の一部」として統合し、相乗効果を生み出そうとする新しいアプローチです。
「公私混同では?」「結局、無限に働くことになるのでは?」そんな疑問も浮かびますが、最新の調査では、このWLIを実現できている人ほど年収や幸福度が高いというデータも出ています。これからの時代の“賢い働き方”のヒントを探ります。
まず、従来のワークライフバランスとワークライフインテグレーションの決定的な違いを整理する必要があります。ワークライフバランスは、仕事(ワーク)と私生活(ライフ)を明確に「切り分け」、対立するものと捉える考え方でした。まるでシーソーのように、片方を重視すれば片方が犠牲になる関係性の中で、時間やエネルギーの配分を調整し、「バランス」を取ることが目的とされてきました。例えば、残業を減らして私生活の時間を確保するといった動きがその代表例です。
それに対し、ワークライフインテグレーションは、仕事も私生活も「統合」すべき人生の構成要素と捉え直します。2つの要素の境界線を柔軟にし、互いに良い影響を与え合う「相乗効果」を生み出すことを目的としています。例えば、平日の日中に子供の学校行事や自身の通院といった私用を済ませ、その分、集中できる夜間や週末に仕事を進める。あるいは、趣味の旅行先で得たインスピレーションを新しい企画に活かす。このように、仕事のスキルが私生活の段取りを良くしたり、私生活での学びや人脈が仕事の成果に結びついたりする関係性を目指すのが、この「統合」の思想です。
このワークライフインテグレーションが、単なる理想論ではないことを示す興味深いデータがあります。「マイナビ」が発表した「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2025年版(2024年実績)」によると、WLIを「実現できている」と感じている正社員は、「実現できていない」層に比べて平均年収が約65万円も高いという結果が報告されました。また、ワークライフ・インテグレーションの実現度については、5人に1人以上が実現できているという結果になっており、20代が最も高いことが判明しました。
※調査は2024年11月15日18日、20~59歳の正社員の男女3000人を対象にしたものです。
さらにこの調査では、正社員の約7割が「仕事と私生活につながりを感じている」と回答しており、WLI実現者は「仕事のパフォーマンスが高い」「働くモチベーションが高い」「プライベートの充実感」のすべての項目において、非実現者を大きく上回る傾向が確認されています。これは、WLIが個人の幸福度向上だけでなく、仕事の具体的な成果や収入にも直結している可能性を示唆しています。私生活の充実が仕事への活力となり、仕事での成功が私生活をさらに豊かにするという「好循環」が、実際に生まれていることが裏付けられたと言えるでしょう。
もちろん、この「統合」という考え方には、大きなメリットだけでなく、注意すべき“落とし穴”も存在します。最大のメリットは、時間や場所に縛られず、個人が最もパフォーマンスを発揮できる環境で働けるようになる「生産性と柔軟性の向上」です。また、私生活での経験、例えば育児を通じて培ったマネジメント能力や、趣味で得た専門知識などが、そのまま仕事の「スキルアップ」につながる機会も増えます。企業側にとっても、こうした柔軟な働き方を許容することは、育児や介護中の人も含めた多様で優秀な人材を確保し、離職率を低下させる効果が期待できます。
一方で、最大の懸念点であり“落とし穴”となるのが、無限労働のリスクです。仕事と私生活の境界が曖昧になることで、24時間仕事モードから抜け出せず、かえって長時間労働や過労につながる危険性をはらんでいます。この問題を回避するためには、会社が労働時間を管理するのではなく、働く人自身がオン・オフを的確に切り替える高度な自己管理能力を持つことが必須となります。同時に、企業側も変革を迫られます。従来の「何時間働いたか」という労働時間ベースの人事評価では、WLIを実践する社員を正当に評価できません。“どれだけの成果を出したか”という成果主義に基づく評価制度への移行が不可欠です。
ワークライフインテグレーションは、「仕事か私生活か」という二者択一の古い価値観から脱却し、「仕事も私生活も」両方を豊かにするための、いわば新しい働き方といえるでしょう。もちろん、職種や個人の価値観によっては、仕事と私生活を明確に「分離」する従来のバランス型の方が合う場合もあるでしょう。重要なのは、会社から与えられた制度に合わせるのではなく、自分自身がどのような人生を歩みたいのかを軸に、仕事と私生活の最適な関係性を主体的にデザインしていくことにあるといえるでしょう。
(LASISA編集部)

